ベアトリーチェ(ゲマトリア)、キヴォトスにて   作:ふぁっしょん

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先生のトリニティ誘致が成功しそうです。
ひとまず認識を共有しましょう。


ベアトリーチェ(ゲマトリア)、シャーレのオフィスにて

 シャーレのオフィスにて、二人の大人が向き合って話していた。

 先生と、ベアトリーチェだ。

 二人は椅子に座り、机を挟み、いくつかの書類を見つめている。

 

 ベアトリーチェは聖園ミカを通じ、先生を誘致する予定を用意することに成功した。まだ連絡は来ていないが、いずれ来るはずだ。

 そのため、なぜ誘致するよう働きかけたのかなどといった認識のすり合わせを、先生と行うことにしたのである。

 先生はいつものように書類業務で気絶していたので、手紙によって軽く情報を共有したのち、より深く共有するための時間を捻出してもらうことにした。

 その結果が、この面談であった。

 

 

 

“この子……アズサが、私に指導してもらいたいって子?”

 

「はい。私のもつ生徒である、アリウスの生徒たちはどうも……

 私がいったことを忠実に守ろうとしてくれるのはいいのですが、守ろうとするあまり、それを前提として行動してしまうきらいがありまして。

 問題となるのは、白洲アズサが……

 もし私が対応するならば、なぜこのような成績を持つに至ったのか……彼女が意図をもってこうしたのか、あるいは意図せずしてこうなったのかという前提を、私は理解する必要があるのですが……

 私がそれらを理解しようとする行動過程において、彼女が私の意図を汲んで、日程を再編成しようと決めてしまう可能性が高いことが、最大の問題だと考えました。」

 

 ベアトリーチェの無数の瞳が細まる。

 

「私が求めたから応えるというだけでは、本質的な部分が変わっていません。

 最も必要なのは、問題を解決する能力ではなく、なにが問題なのかを認識する能力です。似た問題がきたとき同じように困るのでは意味がない。

 しかし私の意図を理解して彼女に干渉することができる人材はみな、トリニティ総合学園所属ではなく、彼女と同じアリウスの生徒です。問題提起が難しい。

 ですから先生には、彼女がただトリニティに合わせた生活を選ぶようになるのではなく、自らの考えをもって生活するよう、働きかけてほしいのです」

 

“なるほどね。それで手紙にあった、トリニティへの誘致を頼んだと”

 

 

 そこまで話したベアトリーチェは、二枚の書類を表に出した。

 二人の少女の顔写真が添付されている。

 

「さらに言えば、ほかにも助けてあげてほしい生徒が二人ほどいます……

 これについては、私から詳しく話すと、かなりプライバシーを侵害してしまう恐れがあります。

 ですから、どの生徒であるかだけ、紹介させていただきます」

 

“聖園ミカ、桐藤ナギサ……”

 

「桐藤ナギサは、少々精神的に不安定になっています。

 その影響を受けて、聖園ミカの負担が増しているのです。

 なぜこれを私が知り解決したいと思っているかについては、聖園ミカの個人的秘密にかかわってくるので……」

 

“うん、わかった。受けるよ”

 

 

 ベアトリーチェは瞬きした。

 それに伴って頭の断片が収縮する。

 

「ふむ……

 ここはひとまず、ありがとうございます、と言わせていただきます。

 それと、おそらく疑問に思われたであろうアリウスという単語について、紹介させていただきたい。

 これは白洲アズサがなぜこのような状況に至ったのかを理解する一助となるはずです」

 

“教えてくれるの?”

 

「もちろんです。

 アリウスとは、私が実効支配しているアリウス自治区という都市にある、私の私塾のことを指しています。ここに所属する生徒はみな、アリウス分校という学園に所属しているのですが……

 アリウス分校は現在生徒会が機能しておらず、教育内容についても、不完全としかいいようがありません。ですから一時的な措置として、私が教導を行っています」

 

 先生の顔が険しくなった。

 

“実効支配って、どういうこと?”

 

「詳細については、こちらの書類をお読みください。ただ先生からすると、おそらく面白くはない内容である……ということは、あらかじめ言わせていただきます。

 さて、アリウスではなにを教えているか、先に説明させてもらいます」

 

 

 ベアトリーチェはそういって、いくつかの記録媒体を取り出した。

 

「これはアリウスにおけるカリキュラムと教材を軽くまとめたものです。

 アリウスでは4から6名をひとつのチームとして、集団で活動を行います。

 教えている内容はおおまかに分類すると、二つの系統に纏められます。

 ひとつめは、トリニティ系統の教義と哲学領域を通した認識学(Epistemology)についてです。特にアリウス自治区に伝わるアリウス派という教義に関することを深く教えています。

 ふたつめは、戦闘全般についてです。これは戦術規模から戦略規模まで幅広く教えています」

 

 先生はそれらをタブレットに読み込ませた。

 そして内容を確認していく。

 

「基本的な方針は、生徒をより……キヴォトスという世界に対して、より幅広く、より深い反応ができるように育てることです。

 先生はゲマトリアの求める崇高という概念について、知っていますか?」

 

“……ううん、知らない”

 

 

 ベアトリーチェは思案するように、頭を動かした。

「では、軽く触りを説明させていただきます。

 我々ゲマトリアの求める崇高とは、神秘と恐怖を併せ持つものです。

 まず恐怖について簡単に説明しますと、これは認識しても理解できない存在を指します。

 そして神秘とは、解釈の結果として理解できるようになった存在です。

 すなわち崇高とは、理解できない部分と理解できる部分を併せ持つ存在である、といえるでしょう。

 厳密な定義を知れば、この言い方はかなりおかしいのですが、ひとまず抱くであろうイメージはこの表現のとおりです」

 

“……それって、ひとによるんじゃないの?”

 

「はい、おおよその場合、特にキヴォトスの外においてはそうです。

 しかしキヴォトス内においてはテクスチャと呼ばれる機能が働いており……

 ふむ……説明が難しいですね。

 たとえば自らを定義することに成功した神秘が、ヘイローを持つようになることをご存知ですか?」

 

“生徒がすなわち神秘ってこと?”

 

「生徒もまた神秘である、ということです。ほかにも神秘に該当する存在があるのです。

 ではミメシスはご存知でしょうか。あれは思考を持ちませんが、一応神秘といえます」

 

“ごめん、ミメシスもわからない……”

 

 

 ベアトリーチェの頭の断面がうねうねとうねった。

 なにやら悩んでいるらしい。

 

「ふむ……

 すみません、私の語彙では端的に話すことが難しい……

 ひとまず、話の軌道を戻させてください。

 ……私が生徒に求めるのは、世界に対し認知を深めることで、自他のもつ定義が哲学的に超越し、その結果として崇高に至ることです。

 ……わかっていなさそうですね」

 

“ごめん……

 でも、なんとなくのイメージはできたよ。

 つまり生徒が、自分にも他人にも、深い理解を示すようになってほしい……

 こういう理解であってる?”

 

 

「……なるほど、先生は感覚的な理解に優れていますね。

 おおよそ、そのような解釈であっていますよ。

 先生、ゲマトリアに入る気は……」

 

“ないよ”

 

 

 ベアトリーチェは残念そうな雰囲気を醸し出した。

 そして話を続ける。

 

「……そうですか。

 では纏めましょう。つまり私は、生徒に崇高に至ってもらうため、アリウスを運営しています。

 そのためには、自他を含めた様々なものに対し、深い理解を持ってもらいたい。

 ですから白洲アズサを始めとしたアリウスの生徒には、私の言葉を聞くだけでなく、自らを頼みとしてどのように行動するかを定めるだけの理解を、周りに持ってほしいのです。

 私の動機を、理解していただけましたでしょうか」

 

 

 先生はなにやら考えこんだ様子で、すこし黙った。

 そして口を開く。

 

“ひとつ、聞きたいことがある”

 

「なんでしょうか」

 

“なんで生徒にそうなってほしいの?”

 

 

 ベアトリーチェは少しだけ、考えて、言った。

「私は……

 私は浅学非才で、もうすでに大人ですが、それでも……

 よりよい存在になりたい。そして世界になにかを齎したい。

 そう思って、キヴォトスにきました。

 そしてだからこそ、今ここにいます」




この時点でメタ思考による再定義をイメージされると、ちょっと困ります。
キヴォトスにおいて重要なのは解釈の多様性ですので、もし定義をひとつに絞っていくのであれば、それはきっと……
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