ベアトリーチェ(ゲマトリア)、キヴォトスにて   作:ふぁっしょん

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 いろいろ書いたんですが、予定していた路線だと噛み応えが薄い。
 ベアトリーチェ(ゲマトリア)には生徒をみてほしいので、こういう方向にしてみました。


ベアトリーチェ(ゲマトリア)、変装姿にて

 トリニティ総合学園からの連絡がシャーレに届いた日。

 その夜、先生が所用を終えてぶらぶらと、(家ではなくオフィスへの……)帰路を歩いていると、シャーレの玄関前にぽつんと人影が見えた。

 ヘイローがあるので生徒のようだが、彼女の制服を、先生は見覚えがあるような、ないような、妙な感じがした。

 記憶を探るけれど、どうも思い当たらない。

 それで、先生は声をかけることにした。

 

 

“こんばんは。こんな夜更けにどうしたの?”

 

 人影が振り返った。

 やはり少女だ。しかし顔をみても名前が思い当たらない。

 シャーレになんの用だろうか……

 彼女は先生をみて、呟いた。

 

「ふむ……

 これでわかりますか、先生」

 

 

 そして、先生は心底驚いて、腰を抜かしそうになった。

 顔がゆっくりと、まるで百合の花が咲くように開き、真っ赤な断面から無数の瞳が現れる。

 そこには血肉や骨ではなく、純粋な赤の濃淡で織られた亀裂があった。

 

“うっ!!!わ……わ!?

 べ、べべべべ、ベアトリーチェ……!?”

 

 

 少女の首から上だけが、真っ赤に変貌した。

 奇妙な赤い裂け目のどこかから、ベアトリーチェの声が発されている。

 あまりにも冒涜的な光景に、先生の顔色が青ざめてゆく。

 

「その通りです、先生。

 直近のゲマトリアの研究成果を転用した結果、体の一部を生徒のように見せかけることに成功しまして……」

 

“びっくりした!びっくりしてる!!すごくびっくりしてる!!!”

 

 

 先生はおののき叫んだ。

 推定ベアトリーチェはその言葉を聞いて、開かれた頭を閉じた。ひび割れのような亀裂が繋がり、まるで何事もなかったかのように、少女の顔が形成される。

 無表情を形成したそれは、唇を動かした。

 

「ふむ……

 わかりやすいと思ったのですが、あまりやるべきではないでしょうか」

 

“生徒にやるつもりだったの!?

 絶対やめたほうがいいと思う……!”

 

「なるほど、参考になります。

 こうしてお会いしたのは、これを含めたいくつかの事について説明するためです。

 これは私が主導し、ゲマトリアの同僚とともに開発した、ヌーメノン(noumenon)という新たな神秘のかたちです……細かい説明はあとにしましょうか。

 ひとまずオフィスへ入りましょう、立ち話もなんですから」

 

“う、うん……”

 

 

 ふたりは歩きながら話す。

 片方は何事もなかったかのように振舞っているが……

 先生はちょっと怯えが残っている様子だった。

 少し歩幅が小さい。

 

“ほかにも用があるって言ってたけど……”

 

「先生には先日、トリニティでの教導をお願いしましたね。

 その件において、少々厄介な事態が発生しまして」

 

 

 扉を通って、先生は椅子を示す。

 たぶんベアトリーチェと思わしき少女は、示された椅子に座った。

 その座る動きにも、どこにも違和感はない。

 やはりただの生徒に見えるが……しかし言動はあきらかにベアトリーチェだ。

 

「……どうやら気になっているようですね」

 

 視線を感じたのか、多分ベアトリーチェは語る。

 

 

ヌーメノン(noumenon)とは、ミメシスという神秘の発展形です。

 ミメシスについて簡単に表しますと、複数の観測者によってある事柄への認識が定着している場合、これに戒律という古い神秘的要素を加えることで形成できる……

 いわば大多数のイメージの具現化です。ですからはっきりとした定義を記憶する維持役と、詳細を知る観測者が複数名必要なのですが……

 ヌーメノン(noumenon)は自らを定義し直す機能を持っています。ですから外部による干渉を必要とせず、更に逐次修正を加えることができます。

 私はこの機能を利用して、過去の私に対する定義をもとに、この肉体を形成しました。

 つまりこれはもともと私の一部であり、もはや本来の私とは別の個体といえます。

 とはいえ思考は共有しているので、自己同一性は一貫していますよ」

 

 

 先生は少しその言葉を咀嚼して、気づいた。

 

“それってつまり……

 ベアトリーチェって昔はこんな外見だったの!?”

 

 

 その言葉を聞いて、無表情のまま彼女は答えた。

 

「心外ですね、私とて初めから大人だったわけではありません。

 今の肉体は、私が大人になる過程において形成し直したものです。先生が知る外見的特徴はおおよそ、途中で身につけました。移動などといった異能もです。

 もとはこんな外見でした、おそらく」

 

 先生はちょっとぞっとした様子で、少し黙った。

 それから口を開き直す。

 

 

“ところで、トリニティでなにかあったの?”

 

 

 ベアトリーチェは姿勢を正した。

 やはり無表情のまま、話しだす。

 

「端的に説明しましょう。先生はトリニティにおける生徒会、ティーパーティーに利用されることになりました。

 先日お会いした際、桐藤ナギサと聖園ミカについて、軽くまとめた資料をお渡ししましたが……

 彼女たちは同じティーパーティーの一員ですが、現在は半ば対立関係にあります。

 そして桐藤ナギサは、聖園ミカが庇う不審な生徒……

 つまり白洲アズサを、裏切り者ではないかと考えています」

 

“裏切り者?”

 

「現在トリニティ総合学園とゲヘナ学園との間で、エデン条約というものが締結されようとしているのですが……

 そのさなか、トリニティ側の重要人物が失踪しまして……

 桐藤ナギサは誘拐事件と考え、その犯人がトリニティ内部にいると推定して、隅々まで調べているのです。

 裏切り者とはその犯人であり、そしてその中でも最有力候補が、白洲アズサです」

 

 

“……実際はどうなの?”

 

「私が犯人です」

 

“ええ!?”

 

 

 ベアトリーチェは説明する。

 

「百合園セイアという生徒が、ゲマトリアにおける重要機密を知ってしまったので、やむを得ず誘拐しました。いずれ問題が解決したあと解放する予定です。

 ゲマトリアとしても私としても、彼女を害する理由は一切ありませんので、健康的な生活を暮らしてもらっているのですが……

 伝わると困る情報がありますので、それについては規制しつつ、書面で連絡をしてもらいましたところ、どうやら非常に訝しまれたようです」

 

 

 先生はなんとも困った表情で考え込み……

 やがて理解したようだった。

 

“それで、二人のケアを頼んだんだね……”

 

「申し訳ありません、ゲマトリアといたしましては、これ以上の対応は様々な問題を内外に及ぼす可能性が高いので、先生にお任せするほかないのです。

 具体的な危険性をいいますと、エデン条約調印式の最中に、トリニティ総合学園の敷地のうち35%ほどが物理的に消失する可能性があります。

 これは地形データです」

 

 ベアトリーチェは懐から小型端末を取り出し、地図を表示した。

 トリニティ総合学園の所有するものすごく巨大な敷地が映し出される。

 先生は戦慄した表情で口を開いた。

 

“35%?

 これが?”

 

「はい。

 ですから先生に対応をお願いしたいと考えました。

 そしてその対応内容についてですが……

 こちらの書類データをご確認ください」

 

 

 ベアトリーチェは先生の端末にデータを送信する。

 その内容を先生は確認し……

 百面相を浮かべ……

 やがて無を浮かべた。

 それをみてベアトリーチェは語る。

 

「私としても、先生としても、避けるべき状況です。

 このような理不尽な理由で、生徒が退学を強制されるなど……」

 

 

 先生はその言葉にまた百面相を浮かべた。

 しかし、無理やり呑み込んで、重い口を開いた。

 

“わかった、やってみるよ……

 この、補習授業部の件”

 

 ベアトリーチェはそれを聞いて、すこし微笑んだ。

 

「ありがとうございます、先生」

 

 先生はなんともいえない表情になった。




 ヌーメノン(noumenon)はプロット形成最初期からある設定です。つまりオチに関わってくる重要な要素。こういう使い方はあんまり……
 これの語源についていろいろ知っている方だと、なんのためにこれを用意したのか察してしまう気がするので、本来ならゲマトリア仲間と怪しげなシーンで出す予定でした。
 しかしアリウス生徒がどのように救われるか、その青春の様子をしっかり描かずにいると、ちょっとあらすじ詐欺感あると感じました。そういうわけで急遽変更。

 ベアトリーチェ(らしい少女)の名前は今も考えてます。そういう執筆状況です。
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