ベアトリーチェ(ゲマトリア)、キヴォトスにて 作:ふぁっしょん
「ふむ……」
ベアトリーチェ(変装済み)はある一角を眺めながら呟いた。
キッチンカーが止まっているその広場では……
ある生徒たちがスイーツを食べている。
喋る姿。
呆れ顔と笑い顔。
見ていて思わず、また声が漏れた。
「実に、興味深い……」
そんな彼女を、近くの生徒たちはひそひそと噂しながら、遠巻きに眺めていた。
見慣れぬ制服の少女が、すでに十分以上、同じ場所に立っている。
それだけでも気になるものだ。
しかしなにより……
彼女から、眺めているその一角までの距離、およそ100メートル弱。
遠すぎる。
ベアトリーチェの優れた聴力は、その一角での会話のみならず、付近の小声も聞きとっていた。
しかし気にしていなかった。なぜか。
それはスイーツを食べる生徒たちが、気になる話をしていたからだ。
(ロマン……
そのための行動……
そしてともに行動する友人)
ベアトリーチェは考えていた。
たとえ失敗が目に見えていても、不明瞭な未知へ、ともに飛び込む。
それはアリウスにおけるカリキュラムでは、想定していなかった要素だ。
観察が必要だと、そう考えていた。
しかしそのときである。
ベアトリーチェの背後から、声がかかった。
「あ、あの……」
「なんでしょうか」
ベアトリーチェが振り向くと、そこにはひとりの生徒がいた。
目元まで伸びた前髪が特徴的なその少女は、おどおどとした様子で問う。
「学園外から来訪された方とお見受けしますが……
なにか、お困りでしょうか?」
「ふむ……
いいえ、困っているわけではありませんよ。
ただ、私のいた学園ではキッチンカーが珍しいので、気になっていたのです」
ベアトリーチェは部分的に正直な答えを返すことにした。
しかし、生徒はその返事を聞いて困惑したようだった。
軽くあたりを確認する。
「キッチンカーって、あの遠くの……
え、ええとですね……もし気になるようであれば、食べてみるのもいいと思います、よ?
えと、いま止まっているのは、たしかおいしいことで評判のところですし、おすすめです」
「ふむ……
なるほど……
しかし……ふむ……」
ベアトリーチェは考えていた。もしあの団欒を乱してしまえば、新たな知見が得られないかもしれない。
しかしここでこの会話に従わないのは不自然。
ここはひとまず……
「わかりました。ひとまず食べてみます。
ありがとうございます、優しいひと」
「は、はい」
そしてベアトリーチェはキッチンカーへと歩き出した。
ここでひとまず、ベアトリーチェがどのような状態でトリニティへいるのかを説明しよう。
まずベアトリーチェの現在の扱いは、アリウス分校からの見学者である。
これについては聖園ミカを通して認証してもらった。
来訪者用のカードもある。名前や経歴は偽装だが。
それに伴い、服装はアリウス分校の制服を再現したものとなっている。
かなり古風でシンプルなデザインだ。トリニティ総合学園では制服を改造するのが常識なので、結構浮いてみえるかもしれない。
そしてベアトリーチェの肉体は、先日先生にあったときからいくつかの調整を加えてあった。
大きな違いは声だ。ベアトリーチェの本来の声ではなく、ある程度幼くした声を出力するようにしてある。もしアリウスの生徒が聞いても、おそらく、わからないだろう……
少なくともベアトリーチェはそう考えていた。
そしてベアトリーチェは、キッチンカーの前でメニューを見た。
メニューには様々なクレープが、写真付きで載っている。
彼女は注意深く、その内容を観察した。
「ふむ……
ううむ……」
直立不動のまま、考えていた。
ベアトリーチェの本来の肉体は、味覚を失って久しい。
食事の記憶について思い出そうとするも、やはりさっぱり浮かばないので、ベアトリーチェは困った。
そしてひとまず、最も安いものを選ぼうとして……
そこで再び困った。
値段が同じ商品がいくつかある。
ベアトリーチェは苦悩した。これは非常に珍しいことだった……
「ちょっといい、お嬢さん?」
そんな彼女に、声がかかった。
ベアトリーチェがメニューから目を外すと、そこには先ほど興味深い会話をしていた生徒の一人がいた。
淡いピンク色の髪をした少女は、続けてこう尋ねる。
「もしかして、どのクレープを食べるのか悩んでいるのかな?」
「はい、食べたことがないので……」
「そっか~……なぬ!?
それはつまり、クレープを食べたことがないってこと?
そっかそっか、なるほど……」
ベアトリーチェは困惑して、少女を見た。
その少女は腕を組みながら、なにやら頷いてから、こう言い放つ。
「ちょっと、私といっしょにクレープを食べない?」
ベアトリーチェは近くの生徒をみた。
さきほどまで彼女と話していた3人は、生温かい視線を送ってきた。
ひとまず、ベアトリーチェは受け入れることにした。
放課後スイーツ学講義を受講する生徒をみている壁になりたい気持ちで書いてます。
難しい……