ベアトリーチェ(ゲマトリア)、キヴォトスにて 作:ふぁっしょん
の続き。
なにやら勧められるがままに、ちょっとお高めのクレープを買い、隣り合い、それを頬張った。
柔らかい。
ベアトリーチェ(変装中)は齧り、咀嚼して、なにやら瞬きした。
味覚というものは、こういうものだったか……などと思う。
そしてそれから、二口、三口と食べた。
隣にいる少女をみた。
その、薄い桃色の髪をした少女は、柔らかな笑みを浮かべ、こちらを見ながら食べている。
ベアトリーチェはなにか言おうとして……
口に入ったものを思って、またクレープを齧った。
それで喋れなかった。
そうしているうちに、気が付くと、クレープ生地は一口ほどの小さな欠片となっていた。
幾度か瞬きした。
隣の少女をみると、なにやら満足げな顔でこちらを眺めながら食べている。
最後のひとかけらを手に、ベアトリーチェは困った。
ここからどうすればいいのだろうか、とも思った。
ひとまず口に入れた。
名残の残る口をもぐもぐしていると、少女が話しかけてきた。
「どう?初めてのクレープは」
「ふむ……
ううむ……」
ベアトリーチェは再び困った。
こういうとき、どう言い表せばいいのだろうか……
普段使わない語彙をひねり出す。
「柔らかく……
甘い。そう、甘くて……
柔らかくて甘くておいしかったです」
あまりの貧弱な語彙に、ベアトリーチェは思わず眉をひそめた。
もっとなにか……言葉が出てこないものかと、首をひねる。
しかしその様子をみて、少女は笑った。
なんだか幸せでたまらないといった表情だ。
「それはよかった!
……私は柚鳥ナツ。放課後スイーツ部ってところの部長をやってるんだ。
君の名前は?」
ベアトリーチェは彼女を不思議に思う。
なにやらいろいろと、不思議なものでいっぱいの少女だ。
柚鳥ナツ……放課後スイーツ部?
疑問はさておき、ひとまず名乗り返す。
「私はアリウス分校の赤崎ヒサゲです。こちらには見学に来ました。
柚鳥ナツさん……ふむ……
クレープ、おすすめしていただきありがとうございました。
クレープとは、良いものですね」
ナツはおおげさなくらい大きく頷いた。
腕汲みして、なにやら妙な顔で話す。
「そうでしょうそうでしょう。
……もしかして、スイーツ自体をあんまり食べたことがなかったり、する?」
「ええ、おそらく。
記憶している限りでは」
「むぅ!スイーツ……
スイーツとは!」
ナツは力強く声を放つ。
「すなわちロマンをもたらすものであり、ロマンそのもの。
時と場所と、ともに食すひと。そのマッチングによって千変万化する幸福……
さきほどの食事姿をみて、私はすぅぐにわかった。
ヒサゲちゃん、あなたはスイーツが好き!
もし今はわからずとも、いずれ悟るだろう……
ただ飲食することに留まらない、青春の輝きを!」
そしてパック牛乳を取り出して、飲んだ。
ベアトリーチェ(赤崎ヒサゲ)は目をぱちぱちした。
「うん、おいしい!
ひとまずヒサゲちゃん、モモトークを交換しない?
私がおすすめのスイーツを伝授してしんぜよう」
「ふむ……?
わかりました、では……」
それを聞いて、懐から端末を取り出して、たぷたぷと触り……
しばらくして、困った表情になった。
「モモトークとは……これであっていますか?」
ナツは画面を覗き込む。
「あ~、入れてなかったかんじか。
そうそう、それを入れて……
よし、では私とお友達になるぞ。
えい」
「お友達……
なるほど」
ヒサゲとしての端末、そのモモトークの欄に増えた、柚鳥ナツという名前をみた。
なにやら感慨深いものを感じた……
その出所を探ろうとするが、やはり思い出せないので、やめた。
ナツは拳を握りしめて語る。
「スイーツは、より味わえる場によって、その幸せを何倍何十倍にも高めることができる……
ヒサゲちゃんには私のとっておきを通じて、そのロマンを知ってもらいたい!
今日の放課後は空いてる?」
「ふむ……?
よくわかりませんが、ひとまず空いていますよ」
「それじゃ、放課後にトリニティの第3校門前に集合!お菓子を買うためのお財布も忘れずにね」
「なるほど?」
そんな様子を、放課後スイーツ部の部員たちは、やはり生温かい目線で見ていたのであった……
レモン絞りのうえで瞑想するレモンの気持ち。
時系列的にナツはまだ某駄菓子屋を知らないはずと想定し、次回はブルーベリータルト的にケーキ屋さんの予定です。