【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「お兄ちゃんに会わせてよ!!」
旗艦空母『グラーフ・ツェッペリン』の一室で少女の声が響き渡る。
帝国は太陽系攻防戦で勝利し、降伏した連邦軍を捕虜として捕えている。しかし捕虜の待遇は良く、独房ではなく個室が与えられて食事もちゃんと出ていた。
今は一人ひとりを説得して、帝国に亡命を薦めている。大半は拒否して捕虜返還を希望しているが、中には亡命を希望して帝国入りする人も居た。理由として、連邦貴族の横暴さに嫌気が差していたり、帝国に占拠された北東部の星系に家族が居て仕方なく亡命を選択したものも居る。
連邦の捕虜は2艦隊分1万2千人もおり、空母『ザイドリッツ』と分けて行っているものの、かなり時間が掛かっていた。説得する側も大変だ。
捕虜には女性兵士も含まれているので、
そのワルキューレ隊員も頭を抱えていた。
説得相手のユースティア・ラングレーは、かれこれ2時間は「お兄ちゃんに会わせろ!」と叫んでいる。その『お兄ちゃん』とは?と聞いても、取り付く島もない。
ユースティアは12貴族の令嬢なので上からは是が非でも説得するように言われているが、こうも頑なだとどうしようもない。
説得に当たっていた女性兵士がほとほと困っていると、部屋のドアが開く。
「あ!お兄ちゃん!!」
「ティア、会えてよかった」
ティアと呼ばれたユースティアが、入って来た連邦軍男性に抱き着く。男性兵士に連れられて入室してきたのは、連邦軍の元506飛行隊隊長ビュート・アーガイル大尉。
男性兵士から事情を聴くと、ビュートは説得に応じて亡命を希望したとのこと。そしてユースティアのことを気にかけていて、説得に協力してくれるらしい。
「ティア、よく聞いてくれ。僕は亡命を希望した。理由は真実を知ってしまったからだ」
ビュートはアーガイル家の長男として生まれたが、家族が事故で死亡し、天涯孤独の身になってしまう。まだ幼かったビュートは、遠い親戚のラングレー家に引き取られる。そこでの生活は決して良くはなかった。ラングレー家の家族からは冷たくあしらわれ、ビュートは孤独な生活を送ることになる。その中でユースティアだけが懐いてくれた。軍に入るまでは彼女だけが救いだった。
「僕の両親は、事故で死んだと知らされていた。しかしそうではない。12貴族の手によって殺された。アーガイル家は始まりの四家の一つ。クライド家の分家なんだ」
始まりの四家とは、地球自由連邦の建国に寄与したノースウッド家、デヴォンポート家、ポーツマス家、クライド家を指す。この四家は初代連邦首長を助け、国民の支持も高かった。
しかし時代が進むと四家の影響力を良く思わない貴族によって、政治的に弱体化させられ、没落していく。残った家も事故などで家そのものが消え去っていた。
それを主導したのが12貴族。ビュートの家も始まりの四家の分家として犠牲になった。
「僕の家族は12貴族に殺された。帝国の資料はそれを信じるに値するものだった」
ビュートは感情を抑えるようにゆっくりと話す。しかし手は力強く握られている。
「復讐……とまでは言わないが、もう連邦の兵士として戦う気にはなれない。僕は帝国に亡命し、帝国軍に入る。ティア、君は12貴族の令嬢だ。複雑な立場だろう。だから強要はできない。でも僕と一緒に来てくれると嬉しい」
「いいよ!」
「え?」
ユースティアはビュートの言葉に食い気味で返事した。困惑するビュート。
「私も亡命する!」
「……僕がいうのもなんだけど、本当に良いのかい」
「お兄ちゃんと一緒が良い!」
「そ、そうか。ありがとうティア……」