【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
案内された小広間の前で入間姉妹は足を止め、そこから先は二人だけで入るよう促された。ユイとレイは居住まいを正して扉を開ける。
「失礼します! 横田ユイ1等武尉、星菱レイ2等武尉、召喚を受け参りました!」
「はい、よくいらっしゃいました」
部屋に入り敬礼を捧げる。皇国の主、女帝陛下が自ら出迎えていた。
女帝の脇には、紫がかった黒髪をショートにした術士の狩衣姿の女性と、銀髪を靡かせ男性用の詰襟を纏った軍帽姿の女性が控えている。
そしてもう一人。皇国に亡命中のフランクス王国国王、現在は自由フランクス政府代表の立場にあるシャルルⅢ世の姿もあった。
「お久しぶりですね、ユイさん。勲章親授式以来でしょうか」
「はい、お久しぶりです、陛下」
ユイは幼い頃、女帝がミヤコ内親王と呼ばれていた時代に遊んでもらった仲で、面識がある。呼び出しの理由は不明だが、この温かな雰囲気からして悪い話ではなさそうだ。
「早速ですが、お呼びした本題に入りましょう。ユイさんは私と。星菱さんは、シャルルⅢ世様とお願いします」
「え?」
レイは思わず素っ頓狂な声を上げた。まったく心当たりがない。
「よろしく、星菱レイ君。別の部屋でゆっくり話そう」
シャルル3世は流暢な皇国語でレイに語りかけると、スタスタと部屋を後にした。レイも慌ててその背を追う。
「さて、私たちも別の場所でお話ししましょう。シズカ、お茶をお願い」
「かしこまりました」
案内されたのは小広間の奥にある一室だった。応接セットが用意されており、ユイは促されるままソファーに腰を下ろす。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
紅茶を差し出してくれた狩衣の女性は、確か侍従長を務める佐世保シズカだ。高位の術士でもある彼女にお茶を淹れてもらうなど、恐縮の極みである。
女帝が優雅な所作でカップに口を付ける。ユイもこれに倣わなければ失礼になると考え、慎重に紅茶を口に含んだ。
「あ、おいしい……」
思わず本音が漏れた。今まで飲んだどの紅茶よりも香り高く、深い味わいがある。国家元首が嗜む最高級の茶葉であることは当然だろうが、それを完璧な温度で抽出するシズカの手腕に驚かされた。
「ふふ、よかった」
「ありがとうございます」
女帝に微笑みかけられ、ユイは再び恐縮する。シズカは着席せず、女帝の後ろに控えた。隣には詰襟姿の少女――近衛師団長の娘、百里モミジも控えている。女帝の側近を務める彼女たちも、相当な手練れなのだろう。
数口お茶を味わったところで、女帝が静かに切り出す。
「お父様はお元気かしら?」
世間話から始まった。叱責の類ではないようだが、どこか切り出しにくそうな気配を感じる。
「はい。最近は直接会えていませんが、通信では変わらず元気そうでした」
ユイの父、横田ハジメは第01護衛隊群の司令を務める横田ハジメ武将補でもある。第01護衛隊群は現在、カムイ州で演習の真っ最中だ。
「そうでしたね。シズカ、確か近々戻ってくる予定だったわね?」
「はい。第01護衛隊群は装備更新のため、本州へ帰還予定です。第03は引き続きカムイ州にて演習。ユイさんの第04もホーロー星系で演習中でしたね」
「はい。私と星菱は、補給艦に便乗して参りました」
皇軍は現在、帝国の侵攻を警戒して国境に艦隊を展開している。しかし連邦への侵攻直後ということもあり、帝国軍も占領地の整理で手一杯のはずだ。油断は禁物だが、一時的な膠着状態にあると言える。
「その連邦と帝国ですが、捕虜交換に際して時限的な休戦条約を結ぶようです」
連邦は先の戦闘で2個艦隊を失い、戦力の立て直しを迫られている。帝国もまた、連戦の疲労を癒やす期間が必要なのだろう。
女帝の説明に頷いていると、彼女の表情が不意に曇った。
「そしてユイさん。お話ししたいのは、その連邦と帝国に関連することなのです」
ようやく本題のようだ。ユイは姿勢を正し、女帝の次なる言葉を待つ。
「今、情報本部や近衛師団の手で、帝国が銀河ネットに流した情報の精査を行っています」
帝国の皇帝が連邦に宣戦布告した際、12貴族の犯罪を裏付ける証拠と称する膨大なデータをネット上に放流した。連邦側は当然否定しているが、皇国としても無視できる内容ではない。
「その情報を精査する過程で、新たに見つかったものがあります。……その中の一つに、あなたのお母様に関連する記録がありました」
「え?」