【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
完全に予想だにしない言葉だった。ユイの母、横田ユリアはユイが三歳の時に亡くなっている。それも、テロに巻き込まれた事故だったはずだ。
「お母様がテロで亡くなられたことは、ご存知ですよね?」
「はい……。ただ、そのテロの犯人は特定されていないと聞いています」
「その犯人が判明したのです。12貴族の手によるものでした」
「え……?」
「お母様が搭乗していた客船『飛鳥Ⅲ』は、連邦領内を航行中にテロに遭いました。連邦捜査局による調査の結果は『犯人不明』とされましたが、実際には12貴族が裏で糸を引いていたのです」
「そんな……なぜ、12貴族が母を……」
母は元連邦貴族の出身だと聞いている。だが、12貴族に狙われるような名家ではない、無名の家系のはずだった。
「今回の帝国側のデータから判明したことですが、あなたのお母様の本当の御名は、ユリアーネ・マリー・フォン・デヴォンポート。……『始まりの四家』の一つ、デヴォンポート家のご令嬢だったのです」
始まりの四家。それは連邦建国に寄与し、国民からの信望も厚かった四つの家系だ。しかしそれを疎んだ12貴族の工作により、次々と歴史の表舞台から消されていった。
「12貴族は、デヴォンポート家の血を絶やすため、客船ごと葬り去るテロを仕組んだようです」
「……っ」
ユイは絶句した。母を――たった一人を消すためだけに、千人を超える犠牲者を出したというのか。女帝は痛ましげに目を伏せ、頭を下げた。
「ごめんなさいね。辛いことを話してしまって」
「いえ……母が亡くなったのは幼い頃でしたから、面影を微かに覚えている程度です。時が経ち、悲しみは癒えていますが、今の話は別の意味であまりに衝撃的で……」
悲しくないはずがない。だが、真実を知ったからといって母が戻るわけでもない。ただ、その巨大な悪意に打ちのめされていた。
「そう。お辛いでしょうが、真実をお伝えすべきだと判断しました」
「お気遣い、ありがとうございます。……あの、この件は父には?」
「もちろん、第01護衛隊群が戻った際に、私から直接伝えます」
「分かりました。お願いします」
「はい。今回の話はこれで終わりですが、……一つ伺ってもよろしいかしら?」
「な、何でしょうか?」
ユイは身構えた。
「お母様から、何か『本』や『ファイル』のようなものを預かっていませんか?」
「え? ……いえ、思い当たるものはありません。あ、母の形見のペンダントなら肌身離さず持っていますが」
いつも身に着けているペンダントを取り出そうとする。
「あ、いえ。結構ですよ。確認したかったことがあっただけですから」
「それが、本やファイルなのですか?」
「ええ。帝国の情報によれば『S-Files』と呼ばれるものです。それが四家に伝わっているらしいのですが、ユイさんがお持ちではないかと気になっただけですので。お父様にも改めて確認してみますね」
「はい。父なら何か知っているかもしれません。その『S-Files』というのは、どういったものなのでしょうか」
「まだ調査中なのです。詳細が分かりましたら、いずれお伝えします」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう。ああ、それからこのことは他言無用でお願いしますね」
「はい、承知いたしました」
女帝が丁寧に頭を下げる姿に、ユイは再び恐縮した。自らの母の死の真実を、これほど高い地位の方から告げられるとは思わなかったが、知ることができてよかったのだと自分に言い聞かせる。
まだ混乱は収まらない。だが、12貴族に復讐しようという気にはなれなかった。あまりに巨大で、遠い世界の話のように感じられたからだ。
モミジに連れられ、小広間の外に出る。そこには入間姉妹が待っていた。
「あれ? そういえば、レイはどこへ行ったのかな?」
続く