【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
レイは、シャルルⅢ世に連れられ、落ち着いた雰囲気の待合室に入る。
「いきなり連れ出してすまないね。星菱レイ君」
「いえ、えーと……シャルルⅢ世陛下」
「前に会った時のように、トロワでいいよ。フランクス語で『3』を意味するんだ。Ⅲ世の3だね」
「はあ……。じゃあ、トロワさん。なんのご用でしょうか?」
レイには、国王であるトロワに呼び出される心当たりがまったくなかった。
「うん、君に謝罪をしたいと思ってね」
「え?」
「環局所泡合同演習リムロックの最終日のことだよ。君の母親について、無神経な言及をしてしまった。不用意な言動で君を傷つけたことを、改めて謝りたい」
「あー……。ちょっと待ってください」
レイは手のひらを向けて言葉を制し、少し考え込む。
「じゃあ、代わりにボクと剣術で模擬戦をしてもらえませんか?」
「え?」
今度はトロワが困惑する番だった。謝罪の代わりに剣を交えたいという提案の意図を測りかねたが。
「なるほど。ワタシが勝負に勝たないと、謝罪を受け入れてもらえないということかな」
「……」
「分かった。奥に武道場があるので、そこでいいかな」
「はい」
二人は御所内にある武道場へと向かい、備え付けの道着に着替えた。ここは普段、近衛師団などの護衛官が訓練に使っている場所らしい。女性隊員が多い組織だが、幸いにも男子向けの道着も用意されていた。トロワは持ち込みの訓練着に身を包む。
板張りの道場の中央で、二人が対峙する。
「ワタシは、これを選ぼう」
トロワが手にしたのは、刃を潰した細身の剣。いわゆるサーベルだ。剣先がわずかに曲がり、鋭い刺突と斬撃の両方に対応可能な形状をしている。
「じゃあ、ボクはこれ」
レイの愛刀は預けたままだ。代わりに重量バランスが似た獲物を探し、刃を潰した模造刀を手に取った。軽く素振りをして感触を確かめる。
「言い出したのはボクですから、ルールはそちらでどうぞ」
「分かった。頭部と下半身以外にクリーンヒットを一撃当てたら勝ち。一発勝負、ということでどうかな」
「はい」
開始線に立ち、互いの呼吸を合わせる。審判はいない。
「では、始めよう」
「テン・シント流、星菱レイ。よろしくお願いします」
「ダッソー流、トロワ。よろしく頼む」
それぞれの流儀で一礼し、同時に身体強化の術式を回す。
トロワの構えはフェンシングに近く、片手に剣を持ち、反対の手を後ろに掲げていた。
(左利きか……)
レイには馴染みのない構えだ。慎重に距離を測るが、間合いが掴みにくい。
「では、ワタシが合図を出すよ。
トロワはいきなり仕掛けてはこず、鋭い眼光で様子を窺っている。
(こちらから仕掛けてみるか)
レイは上段の構えを取った。テン・シント流の上段は頭の真上ではなく、右利きであれば頭の右横に構える。これは実戦で兜を着用している状態を想定しているためだ。
踏み込みと同時に、力強い袈裟斬りを繰り出す。体に当てられずとも、まずはバランスを崩すつもりだった。
しかし、その一撃はサーベルで滑らかにいなされた。刀身を滑るように受け流される。それだけでは終わらず、トロワは刀を巻き込むようにサーベルを絡ませてきた。
(小手狙いか!)
レイは咄嗟に右手を離し、刀が弾かれるままに任せた。トロワは追撃を止め、感嘆の声を上げる。
「すごいね。今の一撃を躱すとは」
「偶然だよ」
「いやいや、あそこから咄嗟に右手を離すのは、なかなかできることじゃない」
賞賛を受けるレイだったが、今の受け流しには肝を冷やした。
(”柔”の剣……なるほど、ゴウガが負けるわけだ)