【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
トロワとレイはシャワーを浴び、再び待合室に戻ってきた。冷たいお茶を飲みながら、二人はすっかり打ち解けた様子で語り合う。
「それにしても、よくこちらの刺突に切っ先を合わせられたね」
「ああ、あれは模造刀で刃を潰して厚みがあったからだよ。鋭い真剣だったら無理だと思う。それができるのはボクの師範くらい。あの人はバケモノだから」
「……君も十分バケモノだと思うよ」
刃を潰しているとはいえ、合わせるべき面は1ミリにも満たない。それをあの極限の速度でやってのける技量に、トロワは改めて戦慄した。
「ところで話っていいの?」
「ああ、そうだったね」
トロワは気持ちを切り替え、真剣な表情をレイに向ける。
「改めて、君の母親について無神経に言及したことを謝罪する」
「いいよ。ところでなんでボクの母親のことを?」
一国の王が、なぜ一市民の母親の名を知っていたのか。レイの純粋な疑問にトロワが答える。
「君の母親、星菱カズミさんは、HF開発の歴史に名を残すべき技術者だと聞いているからだ。ワタシの国にあるダッソーナ社とも縁があってね。開発事故で亡くなったという経緯が、どうしても気になっていたんだ」
「ああ、でもどういう事故だったかボクは知らないよ。教えてくれないんだ」
「すまないが、ワタシも確実な真実は知らない。それが謝罪の理由だ。……ただ、ダッソーナ社の開発担当から聞いた興味深い仮説がある。レイ、君は『AI戦争』を知っているかい?」
「うん、歴史で習ったよ」
約千年前、人工知能の反乱によって引き起こされた大戦。皇国とは別の国での出来事だが、未曾有の犠牲者を出した事件だ。
統合管理システムのAIが有機コンピューターで自らの分身を造った際、想定外の自我が芽生え、暴走したのがきっかけだった。AIが制御する無人機の大群が人類の有人戦闘機を圧倒し、人間側は滅亡の淵まで追い詰められる。
しかし、その絶望を覆したのは、たった一機の機動戦闘機だった。
「でも、それが母さんのこととどう繋がるの?」
「その機動戦闘機は、単機で
「え!?」
「そう。本来、HFのような巨大な素体がなければ不可能な霊力場を、小型の機動戦闘機で展開した。その理由を探った結果、驚くべき事実が判明したんだ。パイロットの脳の構造をそのまま
通常、霊力増幅機は人間の脳の構造を模して造られた人工物であり、HFの素体と同じ
「パイロットの脳と全く同じ構造をした増幅機を積んだことで、その機体はHF並みの霊子出力を得ていたんだ」
「それなら、今だって同じように作れば……」
「そこなんだ。AI戦争後、何度も
「え?」
「脳と増幅機が完全に同調して共鳴を起こすと、人間の精神は負荷に耐えられない。結局、あの伝説のパイロットが特別だったという結論になった。だが、技術者たちは諦めきれない。禁忌を承知で研究は続いている」
「まさか、母さんは……」
「うん。HFの開発過程で、その『完全同調』を試してみたのかもしれない。それは、HF開発者が抱く究極の夢だからね」
「……」
幼かったレイには、母の仕事の詳細は分からない。ただ、母が非常に高位の術士であり、HFの深淵に触れていたことだけは確かだ。もしそんな危険な実験の末の事故だったなら、父が真実を隠すのも無理はないと思えた。
考え込むレイに、トロワは労わりの声を掛ける。
「辛いことを思い出させてすまない」
「いや、いいよ。幼いころの話だし。……いいネタが手に入った。次の帰郷が楽しみ」
「?」
レイは納得し、トロワは胸のつかえが取れた。
二人は最後に握手をして別れた。トロワから「これからも友人として接してほしい」と言われ、レイもそれを承諾した。いつか彼が故郷を取り戻す時、力になりたいと素直に思う。
新たな友を得たレイだったが、ここに来る際、誰と一緒にいたかを完全に失念していた。
「遅い!!!!」
「ご、ごめん!」
御所の御車寄せで、顔を真っ赤にして怒り心頭のユイの姿を見て、レイは慌てて駆け寄った。
続く