【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
暗闇の中に13人の男性がいた。
一人は、現連邦首長アビィ・ウェストミンスター。
その彼を取り囲むように、12人の男性が座っている。
ここは12貴族専用の仮想会議空間。参加者すべてが立体映像だ。
「アビィ君。分かっているかね。早々に連邦軍を立て直し、帝国を駆逐するのだ」
「はっ、早急に対処いたします」
「代わりはいくらでもいるのだよ。次は無いと思いたまえ。以上だ」
正面に座るエルメンドルフ家当主、レジー・エルメンドルフ公爵に睨まれ、縮こまっていた現連邦首長が頭を下げて消滅した。残ったのは12貴族の当主たちだけだ。
「まったく、無能ばかりだな……」
「まあまあ、エルメンドルフ卿。テロの混乱後、有能な官僚が何人も姿を消している。人材不足は仕方のないことでしょう」
「アンドルーズ卿……」
アンソニー・アンドルーズ侯爵が、なだめるようにフォローを入れる。二人のときはファーストネームで呼び合うが、この公式な場ではそうもいかない。
「ところで、一つよろしいかな?」
12貴族の一人フランシス卿が切り出した。
「帝国と半年の停戦条約を結ぶというのは本気か、エルメンドルフ卿」
「捕虜交換が絶対条件なのだ。こちらも2個艦隊を失った。戦力の立て直しには時間が必要だろう」
「では、帝国に奪われた領地はどうなる! 私の親族である領主たちが困っているのだぞ!」
連邦と帝国との間で、捕虜交換を伴う半年の停戦条約が締結されることになった。この提案は帝国側から持ちかけられたものだが、連邦にとっても利は大きい。また、捕虜の中には貴族の子息令嬢が多数含まれており、他家からの催促が殺到していた。
「あんな辺境の土地など、どうでもよかろう? それより捕虜交換だ」
「ふん! ラムシュタイン卿は捕虜の中に長女がいたな? 確か第2艦隊のヒルデガルドだったか。自ら軍に入れておいて、今さら心配か?」
別の貴族、ラムシュタイン卿が口を挟む。それに対し、最初に発言した貴族が憤慨して揶揄する。
「娘は戻り次第、軍を辞めさせる。既に有力な縁談の話が進んでいるのだ。ガサツだが器量だけはいいからな。帰ってきたら教育のし直しだ。軍に居るよりは家に貢献できるだろう」
「男勝りとは聞いているがな。所詮は女だ。案外、向こうで男でも作っているのではないか?」
「なんだと貴様!」
領地奪還を叫ぶ者と、私情で捕虜交換を急ぐ者。12貴族の足並みは乱れ、言い合いが始まった。
「まあまあ。捕虜として2艦隊分、1万2千人が戻ってくる。その人員を核に戦力の再編を行う。北東部の奪還はその後の話だ。それでよろしいかな?」
「う、うむ。もちろん、娘が戻るというのなら」
「領地奪還を約束していただけるのであれば、異論はない……」
アンソニーが絶妙なタイミングで取り成す。レジーが主導し、アンソニーが調整する。12貴族当主会議は、常にこの形で維持されていた。
「他に議題が無ければこれで……」
レジーが会議を切り上げようとしたその時、一人が静かに手を上げた。
「ホワイトマン卿……」
手を上げているのは、白髪を蓄えた老人。100歳を超え、この場における最長老だ。
「最後に一ついいかね? 教皇ヒッカム・パールハーバ聖下を殺したのは、なぜだ」
仮想空間の空気が、一瞬で凍り付いた。
ホワイトマン卿は、エクス教中央協議会の枢機卿の法衣を纏い、胸にはⅩ字のペンダントを下げている。
「その件に関しては、何度も説明したはずだ。テロ組織ミルザム解放戦線の手際が悪かったのだ。爆薬の量を誤ったらしい。我々とて、299階まで被害が及ぶことは望んでいなかった」
「……」
レジーが淡々と説明するが、ホワイトマン卿の疑念が晴れた様子はない。レジーは強引に話題を変えた。
「それよりも、次の教皇はいつ決まるのだ」
「前教皇聖下をあのような形で失ったのだ。本来なら次代は内定していたが、前教皇の意思を継ぐと宣言する者が現れた。信徒に絶大な人気を誇る聖女だ。おかげで
「困ったものだ。宗教界が不安定では政策の予定が立たない。早急に決めてほしい」
「教皇候補者たちも恐れているのだよ。次に消されるのは自分ではないかとね」
「……」
「エクス教は連邦だけの宗教ではない。それだけは、ゆめゆめ忘れぬように」
冷ややかな言葉を残し、ホワイトマン卿の映像が消失した。12貴族の会議は、後味の悪さを残したまま解散となった。