【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
アンソニー・アンドルーズが、視界を覆っていたナノボットによるバーチャルバイザーを解除し、丸い腹を撫でた。
「やれやれ、12貴族の足並みも不安定になってきたな。そろそろ、何らかの
12貴族はそれぞれが独自の思惑を持って集まっており、決して一枚岩ではない。結成から長い年月が経ち、その構造には至る所に歪みが生じていた。
アンソニーが自宅の書斎で考えに耽っていると、重厚なドアがノックされる。
「どうぞ」
入ってきたのは、見上げるような巨漢の男だ。
「久しぶりだな。叔父貴」
「おお、マクスウェルじゃないか!」
金髪の角刈りに筋骨隆々の体躯。連邦軍第二機動騎士団の団長を務めるマクスウェル・アンドルーズは、アンソニーの甥にあたる。
同じ
「最近顔を見せなかったから心配したぞ」
「すまん、軍の再編で忙しくてな。なかなか時間が取れなかった」
美食家で丸々と太ったアンソニーと、鋼のような筋肉を持つマクスウェル。見た目は対照的だが、二人の仲は非常に良好だった。アンソニーには子がなかったため、マクスウェルを実の息子のように可愛がっており、アンドルーズ家の跡取りは彼に決まっている。
「今日はゆっくりできるのか? 夕食をいっしょにどうだ?」
「ああ、喜んで。……その前に、紹介したい者がいるんだ」
「ん?」
マクスウェルの体が大きすぎるため気づかなかったが、彼の背後に一人の少女が隠れていた。異常なほど長い黒髪は足のくるぶしまで届き、長い前髪が顔の半分以上を覆っている。
「ほら、自己紹介しなさい」
「……マリアナ・アンダーセン……です」
少女はマクスウェルの影から少しだけ顔を出し、小動物のように怯えた声で呟いた。
「マリアナ・アンダーセン……12貴族のアンダーセン家か!」
アンソニーの驚いた声にビクッとして、彼女は再び巨体の後ろへ隠れてしまう。
「おししょーさま……」
「がっはっは! 叔父貴は怖くないぞ。マリアナは12貴族の令嬢だが、今年15歳になったので軍に入隊した。私の第二機動騎士団に配属予定だ。もちろん、円卓の騎士団にもな。叔父貴には顔を繋いでおこうと思って連れてきた」
アンダーセン家の当主は、会議でも発言が少なく、何を考えているか分からない人物だ。その娘がマクスウェルの元にいるというのは、アンソニーにとって貴重な情報だった。
「アンダーセン卿に娘がいたとはな。よく教えてくれた。……ん? お師匠様、だと?」
アンソニーは、マリアナの呼び方に違和感を覚えた。
「マリアナは俺の『フェアチャイルド流』の弟子なんだ」
フェアチャイルド流は、ハンマーなどの超重量武器を扱う武術だ。アンソニーは、風が吹けば飛びそうなほど細い彼女が、そんな獲物を振り回す姿が想像できなかった。
「フェアチャイルド流だと? 大丈夫なのか、マクスウェル」
改めて見ても、15歳とは思えないほど華奢だ。しかし、マクスウェルの背から突き出た、彼女が背負っている武器を見てアンソニーは目を見開いた。自分の身長を優に超える巨大な両手斧が、彼女の細い肩に担がれている。本来なら、その重量で後ろにひっくり返っているはずだ。
「ああ、こう見えてもマリアナは常時発動型の身体強化を得意としていてな。膂力に関しては、そこらの男よりよほど上だ」
「えへへ、おししょーさま。……てれる」
長い前髪の隙間から目は見えないが、口元は嬉しそうに笑っていた。
その唇の間から、鋭いギザギザの歯が覗く。
続く