【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「うーん……」
ユイは自室のベッドに腰掛け、唸り声を漏らしていた。
皇居で女帝から告げられた話が、未だに心の内で整理しきれずにいた。母の死の真相と、隠されていた自らの出自。
母が亡くなったことへの悲しみは、長い年月を経て癒えつつある。だが、それがテロによる殺害だったという事実は、現実味が湧かない。12貴族という存在も、今のユイにとっては遠い宇宙の出来事のように感じられた。
むしろ戸惑っているのは、自分が「始まりの四家」の血筋だということだ。平凡な無名貴族だと思っていた母が、建国の功臣の末裔だったとは。
父ハジメに確認しても、彼も初耳だったという。ハジメの語るユリアは、高貴な家柄を感じさせない、庶民的で太陽のように優しい女性だった。幼い記憶の中の母も、全く同じ印象だ。
ユイはセーラー服の襟元から、形見のペンダントを取り出す。
そのままコテンとベッドに横になり、ペンダントを掲げて見つめる。1.5cmほどの盾の形をしたそれは、青いラインが入っただけのシンプルな意匠だ。名家の紋章にしては、素朴すぎる気がした。
「デヴォンポート家ねぇ……」
しげしげと眺めるが、何も分からない。ふと裏返してみると、そこには模様こそないが、精密なスリットのような細い溝があることに気づいた。
「なんだろ、これ……」
指先で触れようとした時、部屋の扉がノックされた。
「は、はいっ!」
「ボクだ。レイだけど、入ってもいいかな」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて起き上がり、ペンダントを襟元から胸の谷間に落とす。胸当てを整え、髪を直し、スカートに皺がないか入念にチェックしてから声を上げる。
「ど、どうぞ!」
自動ドアが開き、赤毛の少年――レイが室内へ入ってきた。
「えっと、座ってもいい?」
「う、うん」
狭い室内には机の椅子とベッドしかない。レイが腰を下ろしたのは、ユイのすぐ隣だった。ビクッと体が跳ねる。一人分ほどの隙間はあるが、近すぎる距離に心臓が早鐘を打つ。
「ユイ」
「ひゃいっ!」
しかし、不意に視界に入ったレイの横顔は、これまでにないほど真剣だった。
「陛下から何を聞いたかは、無理に言わなくていい。でも、悩みがあるなら相談してほしい。力になれるか分からないけど、少しでも心が軽くなるなら、ボクはなんだってするよ」
心配して来てくれたのだ。そう気づくと、緊張は穏やかな温かさへと変わっていった。
「レイ……」
「ユイには、笑っていてほしいんだ。ボクが必ず、それを助けるから」
その言葉が、ユイの中に眠っていた記憶を呼び覚ます。
ホーロー国での会話、レイの母カズミの葬儀の光景、そして――母ユリアが最期に残した言葉。
『ノブレス・オブリージュ。持てる者の義務なのよ、ユイ』
母が伝えたかったこと。自分が目指すべき場所。霧が晴れるように、モヤモヤとしていた視界がパッと開けた。
「ユイ?」
「あのね……詳しくは言えないけど、陛下の話はお母さんのことだったの。それで、自分はどうすべきなのか迷っちゃって」
黙って聞き入るレイ。ユイは彼の瞳を見つめ、力強く微笑んだ。
「でも、最初から決まってたんだよね。カズミさんの時、レイに言ったこと。そしてレイが力を貸してくれるって言って、手を取ってくれたこと。……アタシにできることを、精一杯やるだけだって」
「……うん」
「なんか、スッキリした! ありがとうね、レイ」
「そっか。……ナユも心配してたから、後でお礼を言っておいてね」
「ナユにも心配かけちゃったか。うん、分かった!」
もう、迷いはない。レイの表情にも安堵の笑みが浮かぶ。彼はベッドから立ち上がり、扉へと向かった。
「じゃあ、戻るよ」
「うん。これからもよろしくね、レイ」
「もちろんだよ」
続く