【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「────────ッ!!!」
ユウと呼ばれた、セミロングの髪にリボンを巻いた一見可憐な少女が、空気を震わせるほど強烈な
天を突く『
一対の少女が爆発的な踏み込みで間合いを詰め、国防省の廊下に甲高い金属音を炸裂させた。
「初太刀を防ぐとは、やるわね」
「そちらこそ、この
激しい鍔迫り合いの最中、不敵な笑みを浮かべて火花を散らすユウとツクミ。
互いに弾き飛ばされるように距離を取ると、次の瞬間には目にも止まらぬ連撃が再開された。無機質な廊下に、断続的な激突音が反響する。
(ヤバい……!)
傍観を強いられていたモモは、その光景に戦慄を禁じ得なかった。
先ほどの一撃。あれは「腕一本」どころの話ではない。ユウの太刀筋は、相手を胴体ごと断ち切らんとせんばかりの、純然たる殺意に満ちていた。ツクミの筋力が一分でも負けていれば、今頃この場には骸が転がっていただろう。
この暴走を止めるには、どうすればいいか。
逡巡の末、モモが導き出した結論は、腕組みをして戦いを見守る指揮官――入間を寸止めで脅し、強制的に終了させることだった。入間の隣にいるもう一人の少女も、戦いに集中している。今なら、行ける。
小柄なモモがさらに重心を低く構え、独特の歩法で床を滑るように肉薄する。一気に間合いを盗み、神速の抜刀術を放つ。
が――。
(なっ!?)
放たれた一撃は、隣にいた少女の刀によって、いとも容易く阻まれていた。
それだけではない。驚愕すべきは、自分より「後」に動いたはずの相手の刀が、既に吸い込まれるように鞘へと収まっていたことだ。
鯉口を切る音は、確かに聞こえた。だが、抜刀も納刀も、その軌跡すら全く視認できなかった。もう一度斬りかかったとしても、結果は同じだろう。抜刀術の速度において、自分は完全に敗北していたのだ。
「そこまでだ」
入間の低く響く声が、場の空気を氷結させた。二人は即座に打ち合いをやめ、パッと距離を取る。
「ユウ。寸止めとはいえ、初太刀を防がれた時点でお前の負けだ」
「……はい」
ユウは露骨にしょげた様子で納刀した。対するツクミも刀を収めたが、その手は隠しようもなく激しく震えていた。
「シグレもだ。相手に殺気はなかった。その程度の見極めは怠るな」
「すみませんでした」
モモの奇襲を冷徹に防いだ少女――シグレ。黒髪に慎ましい髪飾りを付けた彼女は、底知れぬ技量を秘めていた。あのまま強行していれば、斬られていたのは間違いなくモモの方だった。
何より戦慄すべきは、ユウのあの猛攻すら「寸止め」だったという事実だ。実力差は、火を見るより明らかだった。
ツクモが正帽を直しながら、入間に向き直った。
「さすがですね。その二人が噂に聞く、入間の『狂犬』と『忠犬』ですか」
モモもその異名には聞き覚えがある。皇国の武芸者が覇を競う数ある大会の中でも、帝が自ら観戦される最高位の大会――天覧試合。そこで連覇を成し遂げた姉妹。
それが姉の『忠犬』入間シグレ、そして妹の『狂犬』入間ユウであったはずだ。
「はは、大層な二つ名だな。まあ見ての通り、まだまだ若輩者だよ」
「……まさか、センパイの娘さんで?」
「あほ。俺の子供はまだ3歳だ。二人は姪っ子だよ。ツクモ、貴様も早く身を固めて子供を作れ」
「あはは……」
数瞬前まで殺気をぶつけ合っていたとは思えない、穏やかな会話。
その豹変ぶりに、モモはただただ呆れ――。
(さすがツクモ兄ぃ! どんな相手とも渡り合えるなんて……素敵!)
――ることはなく、幼い頃からの憧憬はさらに深まったようだった。
笑って誤魔化すツクモの横を、入間が通り過ぎる。
だが、そのすれ違いざま。入間は誰にも聞こえぬほどの小声で、ツクモの耳を撃った。
「連合の艦隊が、演習と称して出航したまま姿を消したらしい」
「……何ですって? 巫女たちの監視を撒いたというんですか」
「ああ。新星系の件、連合のバックには『何か』が潜んでいる。気を付けろ」
それだけを言い残し、入間は振り返ることなく立ち去った。
ツクモはその背中に向け、無言の敬礼を返した。