【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
皇紀4902年12月7日。皇居内の特設放送室は、全銀河国家群へ向けた緊急放送の準備で緊迫した空気に包まれていた。
壇上で最終的な原稿チェックを行う女帝。彼女の視界には、
女帝の背後では、百里モミジが真剣な表情で彼女のヘアメイクを仕上げている。普段は護衛に徹するモミジだが、女帝の身だしなみの管理も彼女の重要な任務だ。元々は専門の担当者がいたのだが、先帝の崩御以来、暗殺への警戒から女帝の肌に触れる人間を極限まで限定することになった。モミジはそのためにメイクの高度専門資格を密かに取得し、今や女帝専任の護衛兼メイク係となっていたのである。
女帝本人は「少し警戒しすぎじゃない?」と感じてはいたが、「備えに過ぎることはありません」という侍従長・佐世保シズカの強い説得に押し切られた形だ。
そのシズカは今、放送スタッフにテキパキと指示を出し、さながら現場ディレクターのような動きを見せている。なぜかカーディガンを肩に羽織り、両袖を胸の前で結ぶ独特のスタイルだ。女帝が理由を尋ねた際、「業界人っぽいでしょ?」と不敵に笑われ、彼女を困惑させたのはつい数分前のことだ。
「オンエア30秒前です!」
シズカの鋭い声で、女帝も居住まいを正す。彼女が身に纏うのは、公務用のスーツでも、神事の際の純白の巫女服でもない。皇国軍最高指揮官――大元帥としての威厳に満ちた軍服姿だ。重厚な装飾の数々が、その肩にのしかかる責任の重さを物語っていた。
無数の照明に照らされながら、銀河ネット放送用のカメラに視線を据える。
「5、4、3……」
シズカが静かにキューを出した。カメラの赤いランプが点灯する。
「皇国民の皆さま。全銀河国家群の皆さま、こんにちは。
いつも皇国民へ向ける柔和な笑顔は封印されていた。引き締まった表情と、わずかに固さの混じる声で、女帝は宣言を開始する。
「既に報道等でお知りの方も大勢いらっしゃるとは思いますが、去る先日、皇国領カムイ州が帝国による不当な侵攻を受けました。この戦闘により、両軍合わせて百数十名の尊い命が失われ、五百名を超える重軽傷者が出ています。まずは、国家のために殉職された方々に対し、深く哀悼の意を表します」
女帝は静かに目を閉じ、黙祷を捧げた。放送室の全職員、そして画面越しの多くの人々もそれに倣う。
「御遺族の方々、ならびに負傷された皆さまには、国として手厚い補償を行うことをここにお約束いたします。さて、今回のカムイ州防衛戦の顛末について、説明させていただきます」
突如、ラヴァーグ国を経由して侵入した帝国領邦軍の動きを、時系列に沿って淡々と、しかし力強く説明していく。
ちなみにラヴァーグ国は、帝国領邦軍の敗北を確認するや否や、それまでの中立宣言を即座に撤回。皇国へ機密情報を提供し、全面的に協力する旨を通達してきていた。女帝はその変わり身の早さに「現金なものね」と漏らしたが、シズカから「国際政治とはそういうものです」と冷静に諭されていた。
「……以上が事のあらましです。この侵攻は帝国からの正式な宣戦布告すらなく行われました。また、我が皇国と帝国の間には、皇紀4901年4月より3年間の相互不可侵条約が締結されています。期限はまだ1年4か月も残されておりました」
女帝は一拍置き、さらに声量を強めた。
「これは明白な国際法違反であり、平和を愛する全人類に対する裏切りです。帝国は一方的に、そして卑劣にも、友愛の契りを踏みにじったのです」
エンプレス・スマイルと称えられた面影はない。皇国民が初めて目にする、峻烈な怒りに満ちた眼差しがカメラを射抜く。
「この卑劣な行為に対し、我々は断固として立ち向かわねばなりません。既に友好国である地球自由連邦、フランクス王国も同様の侵略を受けています。私たちは戦火を望みませんでした。望まぬ戦いに巻き込まれたことは遺憾の極みですが、現に牙を剥かれた以上、持てるすべての英知と力をもって抗わねばなりません。皇国民の皆さんの勇敢なる闘志を頼みとし、速やかに恒久的な平和を取り戻すことを願います」
全皇国民、銀河国家群、そして帝国へ向けて、最後の言葉を突きつける。
「