【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「何だと!? エンプレスが直々にここへ来るというのか!?」
クライーナ国軍・首都防衛基地の基地司令は、皇国軍から届いた通信内容に戦慄した。
帝国軍の撃退を受け、クライーナ国内は安堵と喜びに沸き立っていたが、今度の相手は皇国軍である。帝国からの解放には感謝しているが、皇国が次に何を要求してくるのか、予測がつかない。
「と、ともかく首相官邸へ連絡だ! 首相に至急、当基地へ向かうよう伝えてくれ!」
「はっ!」
基地司令は慌てて副司令に指示を飛ばした。首相官邸からここまでは距離がある。まずは自分が出迎え、粗相のないよう対応しなければならない。相手はあの帝国軍をも退ける強大な武力を束ねる女帝だ。緊張のあまり、胃が鋭く痛んだ。
――
基地司令をはじめとする高官たちが滑走路で慌ただしく整列する中、上空から三機のHFが舞い降りてくるのが見えた。たった三機。
副司令が基地司令の傍らで不安げな声を漏らす。
「ど、どういう意図でしょうか?」
「分からん。まさか、HFの武力を背景に威圧するつもりではあるまいな……」
自分たちの戦力では、あの機体群には逆立ちしても敵わない。解放の恩義はあるが、底知れぬ不安が胸を掠める。
困惑が広がる中、三機のHFは静かに滑走路へ着陸した。まず両脇の随伴機から側近らしき二人が降り立ち、最後に中央の機体から黒髪の少女がしなやかに降り立つ。
資料映像で姿は知っていたが、実物は想像以上に華奢で、小柄に感じられた。皇国人は実年齢より若く見えるとは聞いていたが、これではまだ幼い子供のようにさえ見える。
滑走路に急遽敷かれた赤い絨毯の上を、三人の少女が歩み始める。歓迎の音楽隊すら間に合わない、異例の出迎えとなった。
――
赤い絨毯を歩く少女が、ライフルスコープの十字線に収まっていた。
基地ビルの一角、薄暗い倉庫部屋に伏せたスナイパーが、じっと女帝を狙う。距離はあるが、その男の腕ならば百発百中の間合いだ。
呼吸を整え、スコープの中の小さな頭部に照準を固定し、指をトリガーへ掛けた。
その瞬間、スナイパーの喉から「ヒュウ」という乾いた音が漏れた。声帯からではない。
スナイパーの喉は、音もなく背後から伸びた黒いナイフによって正確に切り裂かれていた。男の背後に立っていたのは、全身を黒装束に包んだ近衛歩兵第1連隊の特殊作戦兵だ。
「メイプル1。こちらブラック3。ターゲット・クリア」
――
「こちらメイプル1。了解」
ナノボットのインカムを通じて、百里モミジが小声で指示を出す。他の地点に配置された特殊作戦兵からも、次々と完了報告が届く。
「全ブラックナンバーへ。オールクリアを確認。引き続き周囲を警戒せよ」
数日前から密かにクライーナ国へ潜入し、不穏分子を排除し続けてきた精鋭たちへ伝える。
今のモミジの通信は、もちろん女帝もシズカも共有していたが、二人は微塵も動揺を見せず、泰然とした足取りで赤い絨毯を進む。
クライーナ国軍基地の高官たちが並ぶ目前、あと五メートルという距離に達した時、列の端にいた職員が突如、懐から拳銃を引き抜いた。
「帝国バンザイ!」