【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
職員が叫んだ瞬間、護衛のモミジが五メートルの距離を一瞬で詰め、神速の斬撃を放つ。職員は引き金を引く間もなく、その体を真っ二つに両断された。
「なっ!?」
基地司令が絶句した次の瞬間、今度は隣にいた副司令が無言で拳銃を取り出し、発砲した。
今度は確実に銃口が火を噴いた。弾丸は一直線に女帝の眉間へと向かう。
だが、弾丸は女帝の目前で、あたかも見えない壁にぶつかったかのように静止した。一瞬、虚空に幾何学模様の光の壁が浮かび上がる。
「
傍らのシズカが、懐から文字の書かれた紙札を取り出し、鋭く放った。呪符は意思を持っているかのように副司令の胸元へ張り付くと、霊的な紐を瞬時に生成してその全身を拘束。バチッという激しい放電と共に、男を気絶させた。
「な、ななな……!?」
目の前の超常的な光景に、基地司令は言葉を失った。そんな混乱を余所に、女帝は歩みを止めず、悠然と彼に近づく。
「貴方が基地司令ですね?」
「は、はは、はい!! 左様であります!」
握手も敬礼も失念し、司令は直立不動で硬直した。
「クライーナ首相の到着までは、まだ少し時間がかかりそうですね。先に、貴方へお伝えしておきたいことがあります」
「は、ひっ……」
まるで何事もなかったかのように振る舞う女帝。その背後では、モミジが拘束された副司令を軽々と肩に担ぎ上げていた。
「皇軍は数日前から潜入内偵を進め、貴国内に複数の帝国工作員が潜伏していることを突き止めました。彼らを一網打尽に炙り出すため、あえてこのような隙を見せる方法を選びました」
「て、帝国工作員……?」
基地司令が「白」であることは既に調査済みだ。彼はあまりの事態に思考が追いつかない様子だった。
「他にも潜伏者がいる可能性があります。今後の捜査、ご協力いただけますね?」
女帝は慈愛に満ちた笑顔でそう告げた。HFから降りた際には小さく儚げに見えた彼女が、今は基地司令を圧倒するほどの巨大な存在感を放っている。これが、銀河国家群第3位、人口12億を統べる者の器なのか。
――
「ふう……。流石に緊張いたしました」
「ふふ、堂々たる振る舞いでしたよ、陛下」
シズカと二人きりの私室に戻り、女帝はようやく肩の力を抜いた。モミジは現在、近衛の事後処理の指揮に奔走している。
その後到着したクライーナ首相に対し、改めて事態を説明。混乱はあったものの、他国の首長を害しようとした背信行為の証拠を突きつけられ、クライーナ側は内部捜査協力を含む皇国側の条件をすべて受諾した。
「流石に目の前で銃を撃たれた時は肝を冷やしました。……無事に『結界』が発動してよかった」
「何度もテストを重ねたではありませんか」
「実戦とテストは別物です!」
弾丸を弾いたのは、ナノボットと霊子工学を融合させた皇国の最新技術である。ナノボットに導霊性の極めて高い合金
この『結界』――ナノボット・エーテルシールドは、生身の人間でありながらHF級の防御を可能にする画期的な装備だが、維持には膨大な霊力が必要であり、皇国内でもこれを使用できる者は限られていた。
「まさか
「何を仰いますか。陛下は術士たちの総本山であるシントウ教の頂点ですよ。表舞台で戦う必要がなかったため計測の機会がなかっただけで、皇族の血筋には古来より強大な霊力が宿っているのです」
先のテロの際にこの技術が完成していれば、先帝を失わずに済んだかもしれない。その悔恨を糧に、宮内庁、術士庁、防衛装備庁、そして民間メーカーが総力を挙げて開発を急いだ結果、この「皇族専用防衛機構」は完成したのである。
「そうですね……。お父様やお母様、ご先祖様のご加護があったのかもしれません」
「はい。間違いございません」
「では、次のシナリオを進めましょうか」
「御意」
後日、皇国は正式にクライーナ新政権と国交を樹立。同時に、帝国からの再侵攻を防ぐための広域安全保障条約の締結へと動いた。
この安全保障機構には、旧赤壁連合を構成していた7カ国が参加を表明。皇国は
調印が行われた皇国カムイ州の州都名にちなみ、この軍事同盟は「サッポロ条約機構」と呼ばれることとなる。
皇国は帝国の東側国境に、巨大な緩衝地帯という名の壁を築くことに成功した。これで心置きなく、次なる戦略へと集中することができる。
続く