【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
皇都北部にあるアサカ訓練場は、雲一つない突き抜けるような快晴に恵まれていた。
本日は皇軍地上部隊が観閲を受ける国家行事、観閲式である。朝早くから大勢の軍関係者や政府要人、招待された諸外国の賓客に加え、高い倍率の抽選を勝ち抜いた民間人たちが続々と詰めかけていた。
スタンド席は既に埋まり始めており、式典に招待された第401人型機動戦闘飛行隊の面々も、指定の席に腰を下ろしていた。
「あ、ユイー! こっちこっちー!」
既に席を確保していた三沢ナユが、横田ユイの姿を見つけて大きく手を振る。ナユの隣には、弟の三沢ゴウガが所在なげに座っていた。
ユイはレイを伴い、ナユの隣席へと滑り込む。
本日の彼らはいつもの軍服ではなく、第一種礼装に身を包んでいた。礼装用の飾緒や白手袋を付けたその姿は、普段の快活な印象とは打って変わった、厳かな気品を漂わせている。
ユイは会場までの道中、タイトスカートでは走りづらいと零していたが、レイは「礼装で走るなよ」と心中で密かにツッコミを入れていた。かつてセーラー服のスカート丈について「短すぎないか」と苦言を呈した際、烈火の如きビンタを喰らった記憶は今も鮮明だ。彼は決して余計なことを口には出さなかった。
「ナユ、あけましておめでとう!」
「あけおめー! ことよろー!」
挨拶を交わすなり、ユイとナユは年末年始の出来事について弾むようなお喋りを始める。
「へー、年末年始はずっとレイ君と一緒にいたんだ?」
「うん。それでね、元旦に初詣に行って――次の日は『超相撲』の初場所を観に行ってきたの!」
「えっ、よくチケット取れたね! 超人気じゃない」
「そうなの! 取るのにすっごく苦労したんだから。でも、それだけの価値はあったわよ。知ってる? 横綱が土俵入りで四股を踏むたびに、ズシンと地震が起きるのよ! 震度4くらい! 霊符術で強化された特製土俵なのに! さすが横綱、皇国最強だわ!」
「そ、そうなんだ……」
興奮気味にまくし立てるユイの迫力に、ナユはわずかに引き気味の苦笑いを浮かべた。
「取組も凄かったな。力士がぶつかり合うたびに火花が散ったり、手から光線を出したりしてさ」
「こ、光線……?」
「あとね、体中からスゴイオーラが溢れ出して相手を圧倒したり。ね、レイ?」
「うん。力士が空中戦始めたときはびっくりした」
「マジか……」
――
正月気分が抜けきらない隊員たちが賑わう席とは離れ、幹部用の招待席では、『かが』艦長・呉ナナ1等術佐が不機嫌を絵に描いたような表情で座っていた。彼女の周囲には近寄りがたい負のオーラが漂っており、周囲の者たちは触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに距離を置いている。
「よっ!」
だが、そんな張り詰めた空気を物ともせず、隣にどっかと腰を下ろす男がいた。ナナは視線だけで隣を確認すると、重い溜息を吐き出した。
「なんだ、ツクモか」
「『なんだ』とは心外だな。そんな顔をしていたら、せっかくの第一種礼装が台無しだぜ。美人なのに」
「放っておいて。もう三日も寝ていないのよ」
「じゃあ、サボって寝ていればいいじゃないか。俺の膝枕を貸してやろうか?」
「そんなわけにいかないでしょう。公式な招待任務なのよ」
ナナは艦長として、観艦式の打ち合わせや諸手続きで連日徹夜を強いられていた。遭遇戦の報告書作成、艦の検査・修繕の手配、次期任務への出航計画。さらにこの観閲式が重なり、年始どころか年末休みを使っても全然足りていない。
「じゃあ、そんな眠れる美女の目を覚ましてやろう」
「26の女を姫とか呼ぶのはやめて。――それで、何?」
「赤壁連合の艦隊が、姿を晦ませた」
「……え?」
効果は覿面だった。ナナの瞳が鋭く見開かれる。眠気など、一瞬で彼方へと吹き飛んだようだ。
「……情報ソースは?」
「近衛だ。信頼性は高い。裏も取れた。マンジュン国の西海艦隊、ラヴァーグ国のバルチ艦隊、そして属国の小艦隊までもが、各港を出航した直後に消息を絶った。第1霊電子戦艦隊群が総出で追っているらしい」
「我が国の巫女たちの監視を欺くなんて……連合の技術がそこまで向上したというの?」
「普遍人主義の国だぞ? そんなわけがあるか」
そのため霊子分野の技術発展は他国に比して著しく遅れており、国力、軍事力ともに停滞しているのが実情である。
対照的に、皇国では「国民皆開魂」を国是として掲げている。女性は妊娠すると国の管轄下に置かれ、
この制度は、地球自由連邦の一部自由主義者から人道上の問題を指摘されているが、結果として国民の九割以上が開魂者となった皇国は、霊子技術において世界トップクラスの地位を確立していた。そもそも皇族が秘匿してきた古文書には、霊電子技術の先駆けとなる巫術や呪術、陰陽術の記述があり、他国には真似できないアドバンテージを保持していたのである。
ナナは持参したペットボトルの水を一口含み、強制的に冷静さを取り戻した。
「それもそうね……なら、他国の協力があるということ? 例えば、汎ペルセウス帝国とか」
「連中はバトルジャンキーだからな。仕掛けるなら正面から堂々と殴ってくるさ」
「なら……」
「ああ。こういう、こそこそと陰険な真似を画策するのは、いつだって地球自由連邦の魔女どもの仕事だ」