【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第四十話 蹂躙
Part-A


「な、何だあれは!」

 

 ベランダで叫んだビリーの問いに答えられる者はいない。

 

 連邦首都ロードンの夜空には、今、二つの月が浮かんでいた。

 

 ロードン星の自然衛星は一つしかない。淡い青き月(Blue moon)と同じほどの威容を誇る、不気味な赤色の月が突如として出現したのだ。それはホログラムなどの虚像ではない。クレーターの凹凸までが鮮明に視認できるほどの圧倒的な質量が、そこに実在していた。

 

 円卓の団員のみならず、異変に気づいた軍職員たちが次々とベランダや窓から身を乗り出し、夜空を侵食する未知の天体を見上げている。数拍遅れて、空を切り裂くような緊急警報が鳴り響く。

 

 この不可解な天体ショーに誰もが驚愕する中、会議室のビジョンパネルが強制的に再起動し、映像を映し出す。

 

『良い月夜だな、連邦の諸君!』

 

 画面を占拠したのは、凄絶な傷跡が刻まれた男の顔。

 

『余は、汎ペルセウス帝国皇帝、フリードリヒⅣ世である!』

 

 皇帝の顔は会議室だけでなく、地上の繁華街の巨大看板や、全家庭の通信端末までもハッキングによってジャックしていた。首都の全住民が、否応なしにその男へ注目させられる。

 

『余は今、この月にいる。もちろん青き月(Blue moon)ではないぞ? この赤い月は、かつて人類が母星と呼んだ地球の衛星であったものだ。その月が今、連邦首都ロードン星の重力圏内に存在する。……それがどういう意味か、賢明な貴公らなら理解できよう?』

 

「馬鹿な!? 太陽系からここまで移動してきたというのか!?」

 

 皇帝の不敵な言葉に、団長アラスが激しく反応した。

 

 天体そのものを移動させること自体は、現代の技術でも不可能ではない。小惑星を移動させて資源採掘を行ったり、彗星をテラフォーミングの資材として運搬したりすることは、重力制御技術の恩恵で日常的に行われている。そもそも、かつて人類が地球を脱出した際にも、小惑星を改造した巨大宇宙船が用いられていた。

 

 だが、この赤き月の出現は、それらとは次元が違う。

 

 太陽系という銀河の辺境から連邦首都まで来るには、途方もない距離を越えねばならない。その道中には局所泡(ローカルバブル)ウォールと呼ばれる、高密度の宇宙塵(ダーククラウド)やブラックホールが密集した重力偏重の壁が立ちはだかっている。次元弾道跳躍(Dimension ballistic leap)すら阻むその「壁」を通過するには、厳重に管理された二本の運河を通る以外に道はないはずだった。

 

 ましてや、現在は停戦条約が失効し、連邦と帝国の主力艦隊が運河の両端で睨み合っているのだ。これほどの巨塊が見つからずに通過できるはずがない。

 

「いや、そもそも……どうやって惑星の至近距離に直接現れたのだ?」

 

 アラスは、出現の瞬間の白い光を思い出していた。あれは紛れもなく、次元弾道跳躍の着空(touchdown)時に見られる発光現象だ。

 だが、惑星の重力井戸の深部へ直接着空するなど、現代の航法理論では自殺行為に等しい。着空の瞬間に惑星の引力に捕らわれ、衝突するはずだ。

 

『そうだ。本来、直径3,474kmもの衛星をこの距離まで一挙に移動させるなど、現行の技術では不可能だ』

 

 まるでアラスの内心を見透かしたかのように、皇帝が言葉を継ぐ。

 

『だが、現に余はここに立っている。答えは単純だ。余は、今の未熟な科学を凌駕する超テクノロジーをもって、この月を運んできた。……それは、12貴族が歴史の闇に葬り、独占し続けてきた古代地球の禁忌たる技術だ!』

 

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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