【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
連邦軍司令部はかつてない大混乱に陥っていた。
帝国の巨大要塞
天体級の質量移動に伴う重力波を解析した結果、その航跡は確かに
現在の理論では、
さらに、恒星の強力な重力圏内で、かつ惑星に接触寸前の位置への精密着空。これはもはや、魔法を超えた「神業」であった。
帝国皇帝の言葉が、軍内部に毒のように回り始めていた。「12貴族が古代地球の技術を独占していた」という主張。軍上層部は12貴族に対し、その真意を激しく問い質したが、返ってきたのは「根も葉もない妄言だ」という木で鼻をくくったような回答のみ。軍と支配階級の間に、修復不能な亀裂が走り始めていた。
消息を絶った
――
「だ、旦那様! 私たちは、私たちはどうすれば……!」
「うるさい! 勝手にしろ! わしに話しかけるな!」
「そんな……!」
「ええい、何故だ! 何故帝国がこんな辺境を狙うのだ!」
狼狽える使用人たちを突き飛ばし、領主は血眼になって鞄に金塊や宝石を詰め込んでいた。
帝国の機動要塞が、首都から30パーセクも離れた辺境のビスマーク州に出現したのは、わずか一時間前のことだ。帝国は着空と同時に、星系全域へ簡潔な布告を発信した。
『貴族を差し出せ。さすれば、民への攻撃は一切行わない』
その呼びかけに応じるかのように、領内の不満は一気に爆発した。
この地の領主、ノースダコタ伯爵は12貴族ではないが、エルメンドルフ家の遠縁であることを盾に、領民へ重税を課し私腹を肥やし続けていた。以前、アラスたちが警備に駆り出されたデモの際にも、武力による強硬鎮圧を命じた張本人である。
伯爵は守備隊に「死守せよ」と絶叫混じりの命令を下した直後、自分だけは一刻も早く逃走しようと画策していた。
「旦那様! お待ちください!」
「離せと言っておろうが! 時間がないのだ!」
財宝の詰まった鞄を両手に抱え、屋敷の裏口から這い出そうとする領主。執事長が必死に縋り付いて止めるが、伯爵は狂乱状態で彼を蹴りつける。
「離せというに、この愚か者が!」
伯爵はついに懐から護身用の銃を取り出し、長年仕えてきた執事長の眉間に向けた。
「何を、なさるのですか……!」
引き金が引かれる――そう思われた瞬間、ガクン、と伯爵の膝が折れた。
その背中には、焦げ付いたレーザー拳銃の銃痕。数歩後ろで、若い執事の一人が震える手で銃を握りしめていた。
「大丈夫ですか、執事長」
「……ああ、助かった。ありがとう」
その場に居合わせた使用人や警備兵の誰一人として、彼を非難する者はいなかった。
「帝国軍に連絡しよう。……領主は、我々の手で処断したと」
ほどなくして、帝国軍の地上部隊が降下してきた。帝国兵たちは、領主を討った執事たちを捕縛するどころか、彼らの境遇に同情し、食料の提供や今後の生活への支援を申し出た。
虐げられていた民衆は、帝国軍を「解放軍」として熱烈に歓迎した。帝国軍は、貴族の残党が戻った際に自衛できるよう武器と物資を置いて、風のように去っていった。これは連邦北東部で起きた現象の再来だ。
かくして
帝国はあらかじめ、連邦全土に工作員を潜伏させ、各州の統治状況を克明に調査していた。圧政が敷かれ、不満が溜まっている州を最初のターゲットに選定し、人心を掌握する。
翻弄される連邦軍の防衛網を嘲笑うかのように、帝国の赤い死神は、辺境の腐敗を一つずつ、確実に落としていった。
皇帝の宣言通り、帝国軍機動要塞による連邦領への無慈悲な「蹂躙」は、まだ始まったばかりだ。
続く