【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-C

 連邦軍司令部はかつてない大混乱に陥っていた。

 

 帝国の巨大要塞赤き月(Roter Mond)は、鉄壁の防衛網を誇るはずの首都ロードンに突如現れ、一撃を見舞って去っていった。

 

 天体級の質量移動に伴う重力波を解析した結果、その航跡は確かに局所泡(ローカルバブル)ウォールを正面から貫通してきたことを示していた。跳躍距離、約10パーセク以上。

 現在の理論では、次元弾道跳躍(Dimension ballistic leap)の限界は3パーセク程度とされ、それを超えるには宇宙航行学のパラダイムシフトが必要だと信じられてきた。帝国は、その限界を三倍以上も上回る跳躍を、直径3,474kmの衛星という無茶苦茶な質量で成功させたのだ。

 さらに、恒星の強力な重力圏内で、かつ惑星に接触寸前の位置への精密着空。これはもはや、魔法を超えた「神業」であった。

 

 帝国皇帝の言葉が、軍内部に毒のように回り始めていた。「12貴族が古代地球の技術を独占していた」という主張。軍上層部は12貴族に対し、その真意を激しく問い質したが、返ってきたのは「根も葉もない妄言だ」という木で鼻をくくったような回答のみ。軍と支配階級の間に、修復不能な亀裂が走り始めていた。

 

 

 消息を絶った赤き月(Roter Mond)が次に姿を現したのは、首都から遠く離れた辺境宙域であった。

 

――

 

「だ、旦那様! 私たちは、私たちはどうすれば……!」

「うるさい! 勝手にしろ! わしに話しかけるな!」

「そんな……!」

「ええい、何故だ! 何故帝国がこんな辺境を狙うのだ!」

 

 狼狽える使用人たちを突き飛ばし、領主は血眼になって鞄に金塊や宝石を詰め込んでいた。

 

 帝国の機動要塞が、首都から30パーセクも離れた辺境のビスマーク州に出現したのは、わずか一時間前のことだ。帝国は着空と同時に、星系全域へ簡潔な布告を発信した。

 

『貴族を差し出せ。さすれば、民への攻撃は一切行わない』

 

 その呼びかけに応じるかのように、領内の不満は一気に爆発した。

 

 この地の領主、ノースダコタ伯爵は12貴族ではないが、エルメンドルフ家の遠縁であることを盾に、領民へ重税を課し私腹を肥やし続けていた。以前、アラスたちが警備に駆り出されたデモの際にも、武力による強硬鎮圧を命じた張本人である。

 

 伯爵は守備隊に「死守せよ」と絶叫混じりの命令を下した直後、自分だけは一刻も早く逃走しようと画策していた。

 

「旦那様! お待ちください!」

「離せと言っておろうが! 時間がないのだ!」

 

 財宝の詰まった鞄を両手に抱え、屋敷の裏口から這い出そうとする領主。執事長が必死に縋り付いて止めるが、伯爵は狂乱状態で彼を蹴りつける。

 

「離せというに、この愚か者が!」

 

 伯爵はついに懐から護身用の銃を取り出し、長年仕えてきた執事長の眉間に向けた。

 

「何を、なさるのですか……!」

 

 引き金が引かれる――そう思われた瞬間、ガクン、と伯爵の膝が折れた。

 その背中には、焦げ付いたレーザー拳銃の銃痕。数歩後ろで、若い執事の一人が震える手で銃を握りしめていた。

 

「大丈夫ですか、執事長」

「……ああ、助かった。ありがとう」

 

 その場に居合わせた使用人や警備兵の誰一人として、彼を非難する者はいなかった。

 

「帝国軍に連絡しよう。……領主は、我々の手で処断したと」

 

 ほどなくして、帝国軍の地上部隊が降下してきた。帝国兵たちは、領主を討った執事たちを捕縛するどころか、彼らの境遇に同情し、食料の提供や今後の生活への支援を申し出た。

 

 虐げられていた民衆は、帝国軍を「解放軍」として熱烈に歓迎した。帝国軍は、貴族の残党が戻った際に自衛できるよう武器と物資を置いて、風のように去っていった。これは連邦北東部で起きた現象の再来だ。

 

 かくして赤き月(Roter Mond)機動要塞は、着空からわずか二時間、一度の砲火も交えることなく、たった一言の布告のみで一つの州を陥落させたのである。

 

 帝国はあらかじめ、連邦全土に工作員を潜伏させ、各州の統治状況を克明に調査していた。圧政が敷かれ、不満が溜まっている州を最初のターゲットに選定し、人心を掌握する。

 

 翻弄される連邦軍の防衛網を嘲笑うかのように、帝国の赤い死神は、辺境の腐敗を一つずつ、確実に落としていった。

 

 皇帝の宣言通り、帝国軍機動要塞による連邦領への無慈悲な「蹂躙」は、まだ始まったばかりだ。

 

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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