【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ユイとレイに「出会い」の明確な記憶はない。物心がつく頃には、当たり前のように隣にいたからだ。
母親同士の仲が良いこともあり、清浄院でも一緒に過ごす時間が長く、他の子供たちと遊ぶ時も二人は常にくっ付いていたという。親子四人で過ごしたあの穏やかな時間は、二人にとってかけがえのない幸福の原風景であった。
だが、清浄院を退院した直後、平穏な日常は突如として崩れ去る。
ユイの母、横田ユリアがテロに巻き込まれ、非業の死を遂げた。
ユリアがどうしても地球自由連邦に行かなくてはならなくなったとき、ユイを連れて行くか最後の最後まで迷っていた。迷った末、長い宇宙移動は子供には負担と思い、父親である横田ハジメに任せ、親友である星菱カズミにもお願いする。
一週間後、届いたのは冷酷な訃報であり、横田家は深い悲しみに沈んだ。
当時、子供たちはまだ「死」という概念を理解できていなかった。だが、ユイは大好きだった母にもう二度と会えないのだと悟った瞬間、堰を切ったように泣きじゃくった。レイもその姿を見て、自分のことのように共に涙を流していた。
母親を欠いた環境で育児を担うハジメを支えるため、星菱カズミは協力を申し出た。彼女は実の息子であるレイと同じように、ユイを慈しみ、育て上げることを誓った。
二人が七歳になるまで、彼らは実の兄妹以上に濃密な時間を共有した。その頃のレイはひどい泣き虫で、むしろユイの方がしっかり者のお姉さんとして振る舞っていた。誕生日はレイの方が早かったが、二人のパワーバランスは完全にユイが優位だったのだ。
(あの頃は、アタシの方がずっとお姉さんだったんだけどな……)
上目遣いでレイの横顔を盗み見ながら、ユイは物思いに耽る。不意に通路の真ん中で立ち止まってしまった彼女に、レイがきょとんとした表情を向けた。
「ユイ?」
「……ん、ううん。なんでもない」
慌てて思考を振り切り、再び前を向いて歩き出す。
初等科学校に入学してからも、しばらくはユイがレイを引っ張る関係が続いていた。
二人の関係性が劇的に変化したのは、レイの母――カズミさんが亡くなった時だ。あのお葬式の日の夜、彼と交わした言葉は今でも鮮明に記憶に刻まれている。
あの夜を境に、レイは変わった。泣き虫な性格がすぐに治ったわけではなかったが、彼は涙を流しながらも歯を食いしばり、耐えることを覚えた。自分から前に出ることは少なかったが、一歩引いた場所でユイを見守り、彼女が壁にぶつかった時には必ず手を差し伸べてくれた。
同じ頃、二人は横田ムゲンの門を叩き、テン・シント流の門下生となった。ユイも共に汗を流したが、当時は体格で勝っていたユイが薙刀でレイを圧倒し続けていた。しかし、レイはムゲンから課される過酷な修行を、弱音一つ吐かずに黙々とこなし続けた。
ムゲンは当初、子供の習い事に付き合う程度のつもりだったが、レイの凄まじい執念を目の当たりにし、彼を弟子として育てることを決意した。
今や、レイは流派の中でも指折りの、最上位の腕前へと到達している。
(まあ、今でも薙刀勝負ならアタシは負けないけどね)
歩きながら、ユイは改めて自分とレイの関係を定義しようと試みる。
好意を抱いているのは間違いない。そして、彼もまた自分を大切に思ってくれているという確かな予感もある。だがその絆は、兄妹や姉弟という言葉では、三沢姉弟のそれとはどこか違う気がして収まりが悪い。家族以上の、しかし単なる友人とも違う、もっと深い何か。
特に自覚が強まったのは、先日、彼が自分の部屋を訪れてくれた時だ。純粋に自分を案じてくれたあの時のレイの眼差し。あの瞬間のときめきは、家族に心配された時の安心感とは明らかに異質だった。
ふと、以前ナユが口にした言葉が脳裏をよぎる。
「ああ、ユイとリンはもう、心に決まった人がいるからね。つまらんのよ」
決まった人。それは間違いなく、レイのことだ。周囲の目には、二人の仲はそれほど明確に映っているのだろうか。そう意識した途端、顔に熱が集まるのを自覚した。
レイに赤面を悟られないよう、気分を紛らわせるようにポニーテールを激しく揺らして頭を振る。
今は恋バナに興じている場合ではない。これから自分たちは戦場へ向かうのだ。帝国を打倒し、フランクス王国を解放しなければならない。友人となったトロワやデルフィーヌの願いを叶えるためにも。
「ど、どうしたの急に??」
「なんでもないったら! ほら、早く戻ろ?」
「う、うん……」
続く