【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-D

 数多の観衆が固唾を呑んで見守り、万事の整った会場に、凛としたアナウンスが響き渡る。

 

『観閲官、大元帥臨場!』

 

 観閲官を務める大元帥――すなわち(みかど)が、会場中央の式典道路へと入場を開始した。

 

 防弾・対爆仕様が施された重厚な皇族専用車に揺られ、帝は穏やかに観衆へ手を振っている。その隣には、一人の少女が同乗していた。艶やかな黒髪を背中まで伸ばし、サイドを頬のあたりで短く切り揃えた、いわゆる「姫カット」が鮮烈な印象を与える美少女だ。

 

「あ、ミヤコ殿下だ! やっぱり、いつ見ても美人だなー」

 

 観閲席で敬礼を捧げていたユイが、堪えきれぬといった様子で感嘆の声を漏らす。帝の第一女子、ミヤコ内親王殿下。

 年齢はユイの一つ上で既に成人とされているため、帝に同行してこうした公式行事に臨む機会も多い。帝には他にも皇子の少年がいるが、まだ幼少であるため、こうした場に姿を見せるのは稀であった。

 

「ユイはミヤコ殿下と、直接お会いしたことがあったんだっけ?」

「ええ、何度もお会いしたことがあるよ。幼い頃には、一緒に遊んでいただいたこともあったっけ」

 

 直立不動で敬礼を続けるナユの問いに、ユイが答える。名門・横田家は皇室とも極めて近しい血縁関係にあり、ユイもまたミヤコ殿下とは旧知の間柄であった。

 

「へー、さすが名家のお嬢様。凄いね」

「まー、進学先も違ったし、アタシが軍に入ってからは全然ご無沙汰だけどね」

 

 帝が紅白の垂れ幕で華やかに装飾された観閲台に着座すると、再び放送による宣言がなされた。

 

『観閲官に対し、栄誉礼!』

 

 特別儀仗隊と音楽隊による栄誉礼が執り行われる。奏でられる『栄誉礼冠譜及び祖国』は、旧地球時代から連綿と受け継がれてきた、荘厳なる伝統儀礼曲だ。

 

 その後、国旗掲揚と巡閲が厳かに進行し、いよいよ式典の華である観閲行進が始まった。

 

 行進曲の勇壮な調べと共に皇軍音楽隊が入場。続いて観閲部隊指揮官を務める第一師団長を先頭に、各部隊の行進が幕を開ける。部隊旗を掲げた学生隊が、規律正しく行進してきた。

 三年前の観閲式には、当時12歳だったユイたちもこの行進の列に加わっていたのだ。

 

「懐かしいね。三年前は本当に大変だったよね、ナユ」

「だねー。腕の振りと歩幅を全員でミリ単位で合わせるの、死ぬほど苦労したよ」

 

 行進は、深い緑の迷彩服に身を包んだ歩兵部隊や、無骨な黒の動甲冑を纏った装甲歩兵部隊へと続く。徒歩部隊の後は、車両部隊の出番だ。軽装甲車や人員輸送車、歩兵戦闘車が寸分の乱れもなく隊列を組む。これらは反重力装置による飛行が可能だが、観閲行進においては伝統に則り、タイヤによる走行を選択していた。

 

 車両の列が続く中、後方から地響きのような重低音が鳴り響き、スタンドの床を揺らし始めた。

 

「お、90式戦車だ。第七師団も参加しているのか」

「詳しいな、ゴウガ」

 

 レイの隣には、いつの間にか三沢ゴウガが陣取っていた。彼は頼まれもしないのに、レイに対して行進部隊の技術解説を意気揚々と語り始める。

 

 地響きが間近に迫る。それは、昆虫を彷彿とさせる六本の脚で大地を捉える、異形の多脚戦車であった。

 

「昔、戦車ってやつは『キャタピラ』で動いていたらしいが、反重力装置が一般化してからは不要になったんだ」

「……じゃあ、なぜわざわざ『脚』が付いているんだ?」

「あれはな、砲撃の際に機体を地面に完全固定するためだ。浮遊したまま120mm霊符滑腔砲を放てば、その反動で機体が後方へ吹き飛んでいっちまうからな。あの脚の爪で地面をがっちりと掴み、反動を逃がすんだよ」

「へー」

「乗員は四名。車長、操縦手、砲手の他に『装填手』がいる。一時は自動装填が主流だったんだが、今は砲弾に霊子充填を行う工程が不可欠だからな。数千年ぶりに装填手が復活したってわけだ。術式を封入した広域火炎弾や貫通雷撃弾など、弾種の使い分けも装填手の腕の見せ所なんだぜ」

「へー……」

 

 語るほどに熱を帯びていくゴウガに対し、レイの相槌は次第に形式的なものへと変わっていく。

 

 眼前を六本脚の鋼鉄獣が通り過ぎると、さらに腹に響く凄まじい轟音が聞こえてきた。

 

 全高40mにも及ぶ巨大な鎧武者が、整然と列をなして歩むさまは圧巻の一言だ。

 

「次は星菱96式人型機動戦闘機か」

「……」

「零式もいいが、俺は96式のこの重厚さも堪らなく好きだな。いかにも武士って感じがしてさ。……おいどうした、レイ。お前の実家の製品だろ?」

「別に」

 

 『星菱』の名が出た途端、目に見えて不機嫌な顔になったレイ。だがゴウガは構わず解説を続行する。

 

 96式HFは、ユイたちの駆る零式より一世代前の傑作機だ。その容姿は五月人形の武者をそのまま40mに巨大化させたような無骨な姿であり、バイザー状の零式とは対照的に、目、鼻、口、さらには髭までが緻密に造形された『総面』と呼ばれる仮面を装着している。まさに「動く巨大武者鎧」そのものであった。

 

 兵器開発の歴史は、霊子技術の進化そのものであると言っても過言ではない。

 

 霊力増幅機(Aether Amplifier)と呼ばれる装置と開魂者をリンクさせることで、人類は莫大なエネルギーを掌握するに至った。

 宇宙を往く艦船はそれを推進力に変え、あるいは艦内の居住環境維持に充当する。特に霊子を用いて船体強度を劇的に向上させる技術を霊殻体(Aether Force Shell)と呼ぶ。

 

 霊殻体は民間船には十分な防御をもたらしたが、軍事的な次元では絶対ではなかった。当初は高出力レーザーや粒子砲で撃破可能な領域に留まっていたのだ。しかし、霊子技術が更なる高みへ到達すると、船体の防御力は既存のあらゆる攻撃兵器を凌駕し始める。

 攻撃側はこれに対抗すべく、航空機型戦闘機や重力子魚雷を投入し、霊殻体の防御網を崩そうと試行錯誤を繰り返した。

 

 この「矛と盾」のいたちごっこに終止符を打ったのが――人型機動戦闘機(Human Frame)であった。

 

 桁外れの霊子出力を誇るHFは、自機の周囲に霊殻体(Aether Force Shell)を遥かに上回る密度の霊力場(Aether Force Field)を能動的に展開できる。

 この鉄壁の防御を破れるのは、同様の霊子出力を備えたHFによる格闘、あるいは至近距離での射撃のみ。HFの誕生は、戦場における「HFの不在」を死へと直結させる、絶対的なパラダイムシフトを引き起こしたのである。

 

 HFこそが戦場の主役であり、国家の命運を握る決戦兵器。その地位は今、揺るぎないものとなっていた。

 

 観閲式が終焉を迎えれば、次は海原の式典――観艦式が控えている。

 『かが』の隊員たちは、まもなく「見届ける者」から「見届けられる主役」へと変わる。

 

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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