【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「どうだった、地上は」
「ええ……もう、取り付く島もないという感じでしたよ」
第3機動騎士団団長、シロウ・カデナ中佐は、第5艦隊司令へ状況を報告するため、ブリッジまで足を運んでいた。
第5艦隊は現在、辺境のビスマーク州星系に留まっていた。ビスマーク州は帝国軍の襲撃を受けた最初の州だが、ここでは大規模な戦闘は発生していない。帝国軍が現れた直後、領民たちの手で領主である貴族が殺害されていたからだ。
帝国軍がきっかけを作ったとはいえ、連邦政府が公認した領主を害する行為は連邦法への重大な違反、すなわちクーデターに他ならない。
しかし、領主の圧政から解放された領民たちは固く団結し、連邦軍の介入を断固として拒否していた。空母『ランドルフ』を中心とした強力な空母打撃群の威容を前にしても、彼らは徹底抗戦の構えを崩さない。
戦力差は決定的であり、力ずくで制圧するのは容易いことだ。だが、軍の使命は領民を守ることにあり、自国民を虐殺することは大前提として避けなければならなかった。
「嫌な役割を押し付けてしまったな、カデナ中佐」
「いえ、自分が適任だと思って志願したことですから」
領民がすべての通信を拒絶しているため、シロウは代表として単騎で惑星へと降下した。
HFF-15J サムライイーグルで着陸した彼は、武装解除を宣言し、HFの両手を挙げて機体を降りた。直後、殺気立った一般市民たちが構える対人銃の銃口に囲まれることとなった。
自分たちは争いに来たのではないこと。通信不能ゆえ直接対話に来たことを誠心誠意伝え、シロウの飾り気のない人柄もあって、辛うじて話し合いの席を設けることができたのだ。
「という訳で……貴族の代官派遣は、何があっても認めない構えです」
「そうか……」
連邦側が提示した「代わりの代官を派遣する」という妥協案も、一蹴されたという。領民たちは「貴族」という存在そのものに、生理的なまでの忌避感を抱いていた。
「どうしますか、司令官」
「そうだなぁ。統合参謀本部の一部には、見せしめに軌道爆撃を行ってでも屈服させろという過激な意見も出ているようだが」
「軌道爆撃!? 正気ですか、そんなことは絶対に認められません!」
「まあ落ち着け。あくまでそういう意見が出たというだけで、既に却下されている。参謀本部もそこまで堕落してはいないだろう」
「……意見が出るだけでも信じられませんよ」
「12貴族の息が掛かった者が混じっているからな」
「それを言うなら、俺だって12貴族の端くれなのですがね。……もし地上で“カデナ”の姓を名乗っていたら、今ごろ袋叩きにされていたでしょうよ」
地上ではあえて「シロウ」とだけ名乗ることで親密度を稼いだが、12貴族出身だと知れれば命の保証はなかっただろう。
「あの皇帝の演説以来、12貴族への憎悪は頂点に達しているからな。……もちろん、お前さんのことは信頼しているぞ、カデナ中佐」
「ありがとうございます。……それで、具体的にどう動きますか? このまま居座り続けても、領民に無駄なプレッシャーを与えるだけですが」
他の辺境州も同様の膠着状態にあり、これまで対応を保留し続けてきた。だが、限界は近い。
「うむ。実は先ほど第4艦隊から作戦の打診があった」
「第4艦隊? 確か、帝国の機動要塞を追跡中のはずでは?」
「ああ。相当な苦戦を強いられているようだが、ようやく敵の逃走ルートを割り出したらしい。……場所は、銀河航路
「R99……あの一本道のところですか」
「そうだ。広大な
「なるほど! 挟み撃ちにして袋の鼠にするわけですね!」
「うむ。2個艦隊による共同挟撃作戦は統合参謀本部も正式に認可した。帝国を連邦領から追い出さないことには、何も解決しないからな」
「そうですね! 自国民を相手にするより、帝国のティーガーを叩く方がよっぽどマシです!」
「よし。では第3機動騎士団に命じる。帝国軍打倒の準備を開始せよ!」
「アイサー!」
シロウ・カデナはブリッジを辞し、自らの持ち場へと向かいながら思考を巡らせる。
(アラスも、領民たちの前であんな居心地の悪い気分を味わっていたんだろうな。俺たちが思っている以上に、貴族への風当たりは最悪だ。……この戦いが終わったら、
帝国を排除したとしても、連邦の抱える問題は山積みだ。シロウの足取りは、無意識のうちに速まっていった。
続く