【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-C

 第一小隊4機の星菱零式が、重力制御によって大気の壁を滑り落ち、地球へと降下していく。目指すは南半球の広大な大陸だ。

 

 眼下に広がる見渡す限りの密林。その真上を通り過ぎようとした時、海田ガイの機体が勢い余って巨樹の先端をかすめる。

 

『うおっ!?』

 

 ガイのHFを囲むように、無数の極彩色の生き物が一斉に羽ばたいた。

 

 それは熱帯雨林特有の、見たこともないほど鮮やかな鳥たちの群れだった。機体の接近に驚き、飛び立ったのだ。

 

『綺麗……』

 

 ガイの僚機、信太山ケイが溜息混じりに呟く。

 

 皇国では保護区や映像の中でしか見たことのない光景。数百、数千の鳥たちが空を覆い尽くし、群れをなして飛ぶ姿は、まさに壮観の一言に尽きた。

 それだけではない。地上を走る無数の動物たちも次々とセンサーに捉えられていく。ここは、人間という捕食者がいない、純粋な生命の楽園なのだ。

 

 ユイがその原始の光景に圧倒されていると、リンからの通信が割り込んだ。

 

『ブルーリボン01。こちらホワイトアイ。惑星全土を走査したけど、人間らしい高位霊子反応は皆無よ。ただ、微弱な霊子反応が多すぎてノイズが酷いわね。生き物すべての生命エネルギーに反応しちゃってるみたい』

「ええ、それは今、身をもって実感しているわ」

 

 眼下に広がる生命の奔流を見つめながら、ユイは答えた。

 

『とりあえず、最も反応が密集している座標の確認をお願い。南緯2.33、東経34.57よ』

「了解、向かってみるね」

 

 指示された座標は、別の大陸にある広大な草原地帯だった。ユイは最短の飛行経路を計算し、全機に指示を出す。

 

「小隊各位、座標を確認。移動するわ」

『『『了解!』』』

 

 重力制御の出力を上げ、一気に加速。本来、人型の形状は大気圏内での高速飛行には不向きだが、圧倒的な重力操作能力の前には空気抵抗など些細な問題でしかない。音速を瞬時に突破し、大気を切り裂くヴェイパーを纏いながら、空に一本の飛行機雲を刻んでいく。

 

 移動の途中、海面を跳ねるイルカの群れや、悠々と潮を吹く巨大な鯨の姿が見えた。任務中であることを忘れさせるような、地球一周の旅だ。

 

 やがて、天を貫く一本の巨大な柱が見えてきた。かつて先帝陛下が非業の死を遂げた、テロの現場である軌道エレベータ。そこに生命反応はない。ユイたちは機体を一時停止させ、無言で敬礼を捧げ、黙祷を終えると再び空へと舞い上がった。

 

 

 目的地に着いたユイは、しばらく絶句した後、リンに通信を繋いだ。

 

「ホワイトアイ。こちらブルーリボン01……」

『どうしたの? 人間は見つかった?』

「ううん、人間はいない。でも……ものすごい数だわ。大地が動いているみたい!」

 

 眼下には、見渡す限りの草原を埋め尽くす大型動物の群れがいた。数千、数万に達するであろう、ヌーと呼ばれるウシ科の動物の大移動だ。その生命のエネルギーが、文字通り大地を揺らしていた。

 

『なるほど。それだけの数が集まっていれば、感度最大なら霊探に引っかかるわね。確認終了よ、引き揚げていいわ』

「了解。第一小隊、これより帰艦します」

 

 その時、随伴していたレイから個別通信が入った。

 

「レイ? どうしたの?」

『……ユイ。ちょっと思ったんだけど……』

「ん?」

『これを見ているとさ、人間って……いない方がいいのかなって、少し思っちゃって』

 

 レイの言葉の裏にある複雑な想いは、ユイにもよく分かった。

 

 かつて人類が地球を離れる際、すべての種を連れて行くことは物理的に不可能だった。厳選された動植物だけを「ノアの箱舟」に乗せ、冷凍睡眠で運び出した。

 その後、予測通りに地球は氷河期を迎え、多くの生物が絶滅の危機に瀕したと思われていた。だが、二千五百年の歳月は、地球をこれほどまでに豊かな、生命溢れる星へと再生させた。

 

 もし人間が残っていたら、これほどまでの楽園にはならなかっただろう。歴史の授業で習った通り、人間は私欲のために多くの種を絶滅させてきた。レイが抱いた「人間不在の正しさ」という疑問は、重く響いた。

 

 しかし、ユイは真っ直ぐに答えた。

 

「それでも、私たちは人間よ。……レイは、アタシがいない世界の方がいい?」

『……それは嫌だ』

「でしょ? 確かに人間は戦争を繰り返すし、醜いところもある。でも、人間には人間にしかできない役割があると思うのよ」

『役割?』

「うん。人類を地球から脱出させた統合政府のリーダー、ユイカ・イカリが掲げた計画の名は『ダンデライオン計画』――皇国語で『たんぽぽ』っていうのよ」

『綿毛を飛ばす、あの花か』

「そう。タンポポが綿毛で種を遠くへ運ぶように、地球の生命を銀河の果てまで届けることこそが計画の真意だった。つまり、人間は生命の種を運ぶ『風』なのよ」

『風かぁ……』

「科学という綿毛を持った人間にしか、命の種を宇宙へ蒔くことはできなかった。だから、人間もここにいていいんだって、アタシは思うな」

『……ありがとう、ユイ。そんな風に考えたことはなかったよ』

「いいのよ。さあ、戻ろう? 私たちの手で、この不毛な戦争を終わらせるために」

 

 HFは重力に逆らい、大気圏外へと力強く上昇していく。

 

 

 彼らがこの太陽系へ足を踏み入れたのは、連邦と帝国の愚かな戦争に終止符を打つため。その壮大な使命の、これが第一歩であった。

 

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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