【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

155 / 300
第四十四話 挟撃
Part-A


「ようやく捕まえたぞ。帝国の機動要塞」

 

 第4艦隊司令官フランク・フレッチャー中将が、勝利を確信したように独りごちた。

 

 目の前の大型スクリーンには、完璧な球体を描く星――元地球の衛星『月』が映し出されている。録画ではない、リアルタイムの望遠光学映像だ。

 

 地球自由連邦内の銀河航路を執拗に追跡し続け、ついにここ銀河航路(ルート)99で捉えることに成功したのである。

 

 (ルート)99は、宇宙塵(ダーククラウド)の真っ只中に形成された極めて細い天然の回廊だ。この空域は地球からもコールサック(石炭袋)の名で観測される暗黒星雲である。星の材料となる高密度のガスや塵が密集し、新たな星々が形成される領域ゆえに重力の乱れも激しい。

 この不安定な暗黒星雲を貫く直線航路(ルート)99を外れれば、もはや安全な次元弾道跳躍(Dimension ballistic leap)は不可能となる。

 

「司令! 機動要塞の反対側に新たな霊子反応を捕捉! 距離30光秒!」

「おお、来たか!」

 

 帝国の機動要塞を挟み撃ちにする形で着空(touchdown)したのは、連邦軍第5艦隊だ。(ルート)99の回廊の逆側から進入し、完璧なタイミングで同一空域へと滑り込んできた。

 

「よし! これで第4、第5艦隊による完全な挟撃体制が整った! 全艦艇および第5艦隊に通達。これより『ハンバーガー作戦』第2段階を開始する!」

「「「Aye, aye, sir!」」」

 

 

 赤き月(Roter Mond)と呼ばれる帝国の機動要塞攻略を目的とした『ハンバーガー作戦』の要旨は明快だ。

 

 まず「ハンバーガー」の名が示す通り、機動要塞を二つの艦隊で挟み込む。(ルート)99という狭く遮蔽のない一本道は、この挟撃戦術において理想的な狩場となる。

 

 もし要塞が逃走を図り次元弾道跳躍を試みても、この回廊の横幅では準備加速のための距離が圧倒的に足りない。要塞が加速できる方向は第4、あるいは第5艦隊が待ち構える前方か後方のみ。その瞬間にありったけの重力子弾頭を叩き込めば、時空間の歪みによって跳躍を阻止できる。この状況下において、要塞に逃げ場はなかった。

 

 第1段階である「封じ込め」は達成された。作戦は第2段階、要塞戦力の削り取りへと進む。

 

 機動要塞は内部に2個艦隊規模の戦力を収容している。これら機動戦力の排除は最優先事項だ。まず敵艦隊をおびき出して各個撃破する。艦隊の数こそ同等だが、総艦艇数およびHFの数では連邦が勝る。要塞という「守るべき背後」を持つ帝国艦隊は自由な機動を制限されるため、事前のシミュレーション通りに艦隊行動を展開できれば、十分に抑え込めるはずだ。

 

 そして最終の第3段階で要塞そのものを攻略する。要塞は強力な魔術砲火を備えているため、艦隊の接近は困難だ。そこで主役となるのがHF隊である。艦隊による揚陸支援砲撃の雨を降らせ、その隙を突いてHF隊が要塞基部や開口部へと突入。内部侵入に成功すれば、勝利は揺るぎないものとなる。

 

 

「よし、各艦砲撃開始! 敵艦隊を炙り出せ! だが深追いはするな、要塞の魔術攻撃の射程には踏み込むなよ!」

 

 連邦軍艦隊による遠距離砲撃が幕を開けた。散発的なこの攻撃自体に要塞を破壊する威力はないが、無視すれば確実に岩盤が削られる。帝国側も座して死を待つわけにはいかず、いずれ艦隊を突出させざるを得なくなるだろう。

 

 持久戦に持ち込まれても、連邦側には後方に盤石な補給艦隊と、さらに長大な補給線が確保されている。物量戦こそが連邦の真骨頂だ。対して要塞側の補給は搭載分に限られる。連邦領内に侵入して2か月、要塞内の資源は確実に枯渇し始めているはずだ。

 

 砲撃を続けてしばし経過したが、敵艦隊に動きはない。フレッチャー中将は、このまま月の岩盤を少しずつ削り取れば、いずれ勝利の女神が微笑むと確信し、薄く笑みを浮かべた。

 

 しかし、その直後。

 

「司令! 艦隊後方に霊子反応多数! 次元弾道跳躍による着空反応です!」

「何だと? 補給艦隊が座標を間違えて現れたのか?」

「いえ! ……霊測より照合! 味方識別信号なし! 敵艦隊です!」

「馬鹿なっ!?」

「空母『グラーフ・ツェッペリン』以下、複数の艦影を確認! 帝国軍第1機動隊群です!」

 

 時を同じくして、反対側の第5艦隊の後方にも敵の増援が出現した。2個艦隊で要塞を挟むはずが、帝国艦隊、第4艦隊、要塞、第5艦隊、帝国艦隊という、最悪の多層挟撃を受けてしまったのだ。

 

 自軍をパン、敵を具としたハンバーガー。だが現実は、連邦艦隊こそが幾重ものパンに挟まれた具――某有名バーガーショップの「ビッグ〇ック」の如き有様だった。

 

 このままでは、連邦の誇る二個艦隊が、無慈悲に平らげられてしまう。

 

「ぜ、全艦反転! HF隊、直ちに出撃せよ!!」

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。