【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-C

「ふむ……。実に、心に響く歌声だ」

 

 赤き月(Roter Mond)の内部にある劇場の特等席。皇帝フリードリヒⅣ世が静かに耳を傾けていたのは、ステージ上で歌う女性たちの調べであった。

 

 彼女たちは、ブリュンヒルデ・ラアウリッヒSS大尉率いるワルキューレ隊。軍服を脱ぎ捨て、純白のドレスを身に纏った彼女たちは、祈りを捧げるようにして歌い続けている。

 

 この劇場はもともと連邦軍基地のレクリエーション施設であり、1000人の観客を収容できる広さを誇るが、今は皇帝と数名の側近が座るのみ。

 

 彼女たちの歌に、意味のある歌詞はない。「ラ、ラー、ラー……」という透明感のある発声。彼女たちの足元にのたうち回る無数のケーブルと、ステージ全体に刻まれた白く輝くルーン文字ALGIZ(アルジズ)。そのルーンは仲間の助けやサポートを与えてくれる力があるとされている。

 

「状況は?」

「はっ。敵軍の指揮系統は完全に攪乱されております」

 

 皇帝の問いに答えたのは、隣に座る魔道艦隊群の上級技官だ。ナノボットのウィンドウを操作し、戦場全体の混迷ぶりを観測している。

 

「美しい歌声が、最強の霊電子戦兵器となるとはな」

「大八洲皇国では、霊電子戦の際、巫女が舞を捧げると聞き及びました。本戦術はその術理を応用したものです」

 

 トランス状態でエーテル層に直接アクセスし、情報の海を掻き回す皇国の巫女。その神秘を科学的に解釈した帝国は、霊力の高いワルキューレ隊員に特定波長の発声を行わせ、要塞の巨大な『コア』を増幅器としてエーテル層へ干渉させていた。

 皇国の伝統技能には及ばずとも、広域に展開された敵の霊探(Aether Radar)霊測(Aether Sonar)を完全に機能不全に陥らせるには、十分すぎる威力だ。

 

 

 皇帝がしばし目を瞑り歌を楽しんでいると、緊急の通信ウィンドウが開く。

 

『陛下。敵艦隊、有効射程圏内に進入しました』

「そうか。ならば、掃討を始めろ。余も司令室へ戻る」

『はっ!』

 

 皇帝は席を立ち、出口へと歩き出す。

 

「彼女たちには交代で休息を。あともう少しだけ、力を貸してくれと伝えておけ」

「御意」

 

 上級技官に一言残し、皇帝は劇場を後にする。

 

――

 

「正面の敵を抑えろ!陣形を崩すな!」

 

 第4艦隊司令官フレッチャー中将は、焦っていた。

 

 挟撃するはずが逆に袋叩きに遭い、信じていた物量という強みすらも、霊電子攻撃による指揮系統の崩壊によって無効化されている。逆に帝国の艦隊は、一糸乱れぬ連携を見せ、連邦艦隊を追い詰めていた。

 

 HF戦に至っては、霊探情報の喪失により、亜光速で移動する敵と出会い頭に激突するだけの無秩序な遭遇戦と化している。

 

「司令官! 機動要塞から高密度霊子反応を確認!」

 

 光学映像には、いつの間にか視界を覆い尽くさんばかりに巨大化した機動要塞の姿があった。追い詰められた艦隊は、気づけば要塞の直近まで押し流されていたのだ。

 

「いかん! 要塞砲が来るぞ!」

 

 フレッチャーの予感は的中した。要塞表面に巨大なルーン文字が、いくつも浮かび上がり、目も眩むような白い光線が第4艦隊を貫いた。

 

「駆逐艦『グリーブス』大破!」

「駆逐艦『ブリストル』中破! 救難信号、途絶しました!」

 

 魔術砲撃による暴力的なエネルギーは、軍艦の誇る霊殻体(Aether Force Shell)を紙細工のように貫通し、艦の構造材ごと焼き尽くす。パニックに陥った第4艦隊は、回避を試みてさらに陣形を崩す。旗艦空母『レキシントン』を中心に集結しようとするが、それは敵にとって絶好の的となることを意味していた。

 

「だめだ! 固まるな! 集中砲火を浴びるぞ!」

 

 だが、その叫びは混乱の渦に飲み込まれた兵士たちには届かない。

 

「機動要塞、さらなる高エネルギー反応!! これまでの最大級の規模です!」

 

 月の表面、三つの巨大なルーン文字が猛烈な回転を開始し、激しい稲妻を放電し始めた。

 

「あれは……あの時、青い月を破壊した……」

 

 フレッチャーは、その先の言葉を紡ぐことができなかった。

 

――

 

「魔道重砲『トールハンマー』、直撃を確認。敵旗艦『レキシントン』轟沈。随伴艦多数の消失を視認しました」

「うむ」

 

 連邦軍第4艦隊は、魔道臼砲シュトルムの連射によって隊列を崩し、最後の一撃である魔道重砲トールハンマーによって壊滅した。

 

「敵第4艦隊、残存艦は離脱を開始。第5艦隊も反転して逃走しています。追撃しますか?」

「いや、深追いは無用だ。第1、第2機動隊群を帰投させよ。この戦いは、まだ序章に過ぎん」

ヤヴォール(Jawohl)!」

 

 これで連邦軍が誇る7個艦隊のうち、第2、第3、第4艦隊が消滅。第5艦隊もまた甚大な損害を被った。連邦軍主力戦力の過半を削ぎ取った計算だ。だが、皇帝の目はさらに先を見据えていた。

 

 皇帝が思考を巡らせていると、要塞司令から新たな報告が届く。

 

「陛下。太陽系に配置していた無人ステーションが全滅しました。攻撃主は皇国軍艦隊と推測されます」

「なに? 皇国の艦隊が太陽系に?」

「連邦への援軍でしょうか。しかし、あのような辺境に現れるとは」

 

 太陽系は、この月という要塞を手に入れた時点で、帝国にとっては戦略的価値を失った場所だ。

 

「……連邦を救うにしても、なぜ今さら太陽系なのだ?」

 

 皇帝はしばし沈黙し、脳内の銀河地図をなぞった。連邦にとって太陽系は最果ての地だ。そこに艦隊を送る軍事的合理性は……。

 

「……っ、いかん! そういうことか!」

「陛下?」

「我々はどうやってこの地へ現れた?」

「……古代の銀河航路。フランクス領から太陽系へと続く、忘れ去られた回廊であります」

「そうだ。皇国は古い歴史を持つ国。キミヒトの娘ならば、古代の航路を知っていても不思議ではない」

「はっ、まさか皇国軍の狙いは……!」

「うむ。太陽系を起点に逆走し、手薄なフランクス王国を奪還するつもりだ。ローマリアまで抑えられれば、我が軍の補給路は根元から断たれることになる。……さすがはキミヒトの娘だ。余の『喉元』を正確に狙ってきおるわ」

 

 皇帝は太陽系奪還のための指示を出す。その作戦には第4機動隊群を当てた。第4機動隊群はサルガス運河の出口に張り付かせていた部隊だ。黒鷲(Schwarzadler)を含む元連邦軍の連合義勇機動隊も編成に組み込まれている。

 

 

続く

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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