【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第四十五話 離脱
Part-A


 地球の巨大な白い塔、軌道エレベータの目前に十数機のHFが静止していた。

 

 その中心に位置する2機は、陣羽織の装甲を纏った星菱零式HF――大八洲皇国女帝専用機と、深紅のマントを翻すラファールM剣士型HF――フランクス国王専用機。周囲にはそれぞれの側近たちが駆る随伴機が、厳戒な陣を敷いている。

 

 目の前にあるのは、窓が無残に破壊された300階。あの忌まわしきサミットテロの現場であり、女帝とフランクス王が同時に両親を失った場所であった。

 

 ラファールに搭乗する元フランクス国王シャルルⅢ世、現自由フランクス政府代表のトロワ・ダッソーナは、エクス教式の祈りを捧げるべく、手でⅩ字を切った。HFもその動きをトレースし、厳かに胸の前で交差する。短い祈りを終えて隣を見やれば、女帝はいまだ手を合わせ、深い沈黙の中で祈り続けていた。

 

 彼女には、亡き両親に報告すべきことが山ほどあるのだろう。

 

 トロワ自身、先王や王妃と共に過ごした記憶は決して多くはない。仲が悪かったわけではないが、国王夫妻は常に政務に追われ、トロワは物心つく前から乳母の手で育てられた。王と王妃が十代という若さで彼を産んだことも、その距離感に影響していたのかもしれない。親に育てられたという実感より、縁戚であるダッソーナ家で過ごした時間の方が、彼にとっては血肉となっていた。

 

 一方、皇国の女帝はどうなのだろうか。性別の違いこそあれ、その祈りの長さからは、彼女がいかに両親を深く敬愛していたかが痛いほど伝わってきた。

 

 トロワは彼女に対し、計り知れない恩義を抱いている。今回のフランクス王国奪還への協力もそうだが、何より、国を失い無様に生き延びてしまった自分を、彼女は真っ当に受け入れてくれた。それは憐れみなどではなく、同じ痛みを分かち合う対等な存在としての共感だった。精神のどん底から救い出してくれた彼女には、一生をかけても返しきれない恩がある。

 

 自分に何ができるかはまだ分からない。だが、まずはこの海神作戦を完遂し、祖国を奪還することが先決だ。

 

 トロワは女帝の瞑想を妨げぬよう、側近へ秘匿回線を開く。

 

「フィー」

『はっ』

 

 デルフィーヌ・ランディヴィジオは即座に応答する。

 

「補給の進捗は?」

『98パーセント完了。我らが帰艦する頃にはすべて終了している見込みです』

「分かった。ありがとう」

 

 常に的確な情報を返す有能な側近。ランディヴィジオ家は代々フランクス王家を支える忠臣の家系であり、トロワの乳母も彼女の親類にあたる。幼い頃から共に育ったフィーは、一歳年下の妹のような存在だった。

 

 だが、最近の彼女は以前にも増して臣下としての礼節を重んじている。兄妹のような気安さが消えたことに一抹の寂しさを覚えるが、それこそが彼女なりの「覚悟」の表れなのだとトロワは理解している。

 

 やがて、女帝がゆっくりと目を開けた。

 

『お待たせしました。戻りましょう』

 

 通信から聞こえる声は、どこか沈んでいる。HFのコックピットという密室で、彼女は両親に何を語りかけたのだろうか。

 

 側近たちを伴い、それぞれの母艦へと転進する。

 

 トロワの胸中には複雑な思いが渦巻いていたが、今はそれを押し殺し、全神経を眼前の作戦へと注ぐ。

 

 フランクス王国奪還を掲げた大反攻作戦――海神(ネプチューン)作戦が、ついにその幕を上げる。

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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