【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
クノイチのごとき変幻自在の動きを見せる白いイーグルに対し、レイは二刀流で数合の打ち合いを演じていた。敵の機動力は脅威だが、純粋な剣の冴えではこちらが上回っている。
レイは敵を牽制しつつ、戦域全体の状況を確認した。そして、ユイへ至急連絡を入れるべきタイミングであることを察知した。
――
ユイの空色の零式と、ヒルダの黒いアードヴァークが何度も激しく火花を散らしていた。本来、長柄武器は間合いを活かした一方的な攻撃を可能にするが、互いに同様のリーチを持つ者同士、膠着状態が続く。
一進一退の攻防。機体同士がぶつかり合うたび、激しい衝撃が伝わってくる。
「なんで連邦を捨てたのよ!」
『理由は単純だ、ユイ!』
「何よ!」
『愛だ!』
「あ、愛ぃぃぃぃ!?」
激突の合間に、接触通信を通じて断片的な言葉が交わされる。
『愛は素晴らしいぞ、ユイ!』
「何を言ってるのよ、ヒルダ!!」
『今の私は以前の私ではない! 今の名は、ヒルデガルド・ビルケンフェルトだ!』
「はあ!?」
『私は最愛の人、ジークと結婚したのだ!』
「けっ!?」
打ち込まれる衝撃以上に、そのあまりに予想外な告白に、ユイは精神的に圧倒されていた。
その時、レイからの個別通信が飛び込んできた。
『ユイ! 全体を見て! 撤退のタイミングだ!』
「はっ……!」
レイの鋭い声で、ユイは瞬時に冷静さを取り戻した。旧友との再会に、いつの間にか熱くなりすぎていた。
中隊の状況を確認すれば、全機が完璧に敵を足止めし、かつ後退ラインまで到達している。ユイはヒルダの一撃を凌ぎながら、リンへ叫んだ。
「ホワイトアイ! オッケーよ!」
『了解。これより
リンの無機質で冷静な応答が耳に届く。ユイは全機へ、この瞬間に合わせた一斉離脱を命じた。
『カウント開始。10、9、8、7、6……』
ユイはアードヴァークへ向けて、渾身の力で薙刀を投げつけた。不意を突かれたヒルダが、反射的に回避行動をとる。
『3、2、1。
――
ヒルダの視界が、バチッという激しいノイズと共に真っ白な閃光に包まれた。数秒後、ようやく視覚が回復した時、そこにはもう、一機の敵機も存在しなかった。
「逃がしたか……」
先ほどまで刃を交えていた空色の零式は、赤方偏移の光を曳きながら、既に追尾不能な彼方へと消え去っていた。
霊電子攻撃によって生じた刹那の空白。それを利用した見事な一斉撤退。敵ながら天晴れと言わざるを得ない。
『くっそー! 逃げられた! あともう少しだったのに!』
ユースティアからの悔しげな通信が入る。あのティアと互角に渡り合える者がいるという事実に、ヒルダは皇国の底力を再認識していた。
「ティア、帰艦するぞ」
『えー! なんで!? 追いかけようよ!』
「無駄だ。皇国艦隊は我々が追いつく前に、太陽系を離脱しているだろう」
『ちぇっ! あの赤い零式……今度遭ったら絶対に切り刻んでやるんだから!』
「そうだな。……今度遭ったらな」
ユイが消えた虚空を見つめ、ヒルダは静かに決意を固める。
友となったユイには申し訳ないが、次は容赦しない。愛する人と共に生きるため、次は必ず撃墜する。
そう心に誓い、彼女は空母『グナイゼナウ』への帰路に就いた。
続く