【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「枢機卿からの呼び出しとは、穏やかではありませんね、ジョージ」
「何だろうな。爺さまのことだ、僕だけでなくソフィアまで指名したとなると……時期的に帝国軍に関連したことだろうが」
「なるほど」
聖騎士であるジョージ・ホワイトマンとソフィア・エルスワースが並んで歩くのは、エクス教中央協議会――教皇庁の厳かな回廊だ。
教会を統括するこの組織は、フランシスコ州にあるグレース大聖堂の近傍に位置し、エクス教信徒にとっての聖地である。
ジョージの祖父は、教皇を補佐する
二人は、枢機卿の執務室の前に到着した。ジョージが重厚な扉をノックする。
「爺さま……失礼、ホワイトマン枢機卿猊下。ジョージ・ホワイトマン、およびソフィア・エルスワース、参りました」
『おお、よく来たな。入れ』
「失礼します」
扉を開けると、そこには威厳を湛えて机に向かう祖父の姿があった。
だが、その目前に一人の見知らぬ人物が立っていた。黒灰色の軍服に、目深に被った軍帽。
「帝国軍……!?」
ジョージとソフィアは、条件反射的に武器へと手を伸ばす。
「落ち着きなさい。彼は帝国軍からの特使だ」
帝国軍服の男は静かに二人へと向き直り、連邦式の敬礼を捧げた。
「私は元連邦軍第5機動騎士団、第506機動戦闘飛行隊隊長。現帝国軍
「黒鷲……あの亡命部隊か」
太陽系攻防戦で捕虜となり、自ら帝国へと下った者たち。ジョージの中には、連邦を裏切った者たちへの隠しきれない嫌悪感があった。
だが、ソフィアは別の記憶を辿っていた。
「あら? アーガイル? ……もしかして、ティアが言っていた『お兄ちゃん』のこと?」
「おお、ティアの知己の方でしたか」
ティアことユースティア・ラングレーは、
ソフィアが事情を話すと、ビュートは現在のティアが元気に過ごしていることを教えてくれた。
わずかに場が和んだものの、ジョージは気を引き締め直し、祖父に向き直る。
「それで、帝国の特使が何の用でここへ?」
「ああ……。まずはこれを見てくれ」
祖父は机の上に浮かんでいた鈍く光る白い立方体を指先で弾く。
大容量の機密情報を圧縮したナノボット・データキューブだ。ジョージが空中でキューブをタップすると、複数の仮想ウィンドウが展開され、膨大な資料が浮かび上がった。
「これは……通信記録に設計図。それに嘆願書?」
ソフィアも横から覗き込むが、一見しただけではその意味するところは分からない。だが、音声ログや精緻な設計データが並ぶ様子から、それが尋常ならざる重みを持つ資料であることは察せられた。
「それは、前教皇ヒッカム・パールハーバ聖下の暗殺計画を裏付ける証拠だ」
「何!?」「何ですって……!?」
祖父は冷徹な声で、一つひとつの資料について説明を始めた。
通信記録には、テロ組織『ミルザム解放戦線』の幹部と、複数の連邦貴族との生々しいやり取りが残されていた。設計図は、テロに使用された「爆弾化された木製テーブル」の細部を示している。
「聖下はテロに巻き込まれたのではない。最初から死を狙われ、計画的に殺害されたのだ」
「……しかし、これは帝国からの情報でしょう? 連邦を混乱させるための偽情報である可能性は?」
ジョージが縋るように確認するが、祖父の回答は非情だった。
「事実だ。既にこちらで裏は取ってある。通信記録に現れた連邦貴族の身辺を洗ったところ、エクス教の
「……嘘だろ……」
「司法部で司教の一人を秘密裏に査問した結果、すべてを認めたよ。教皇聖下の会談時刻と場所は、テロリストに筒抜けだったのだ。爆弾は、階下まで確実に破壊し、聖下を葬り去るために特殊な設計が施されていた」
関与した高位聖職者たちは既に職務停止処分となっている。神官庁はこれを隠蔽し、病死や隠退という形で処理するつもりだろうが、内部に穿たれた傷は深い。
「なぜ……なぜ、同じ神に仕える者が、あのような慈悲深い方を……」
「金だよ、ソフィア。あまりに低俗で、欲望に忠実な裏切りだ。教理を説く立場にあるまじき暴挙と言わざるを得ない」