【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
机に肘をつき、指を組む祖父の横顔には、抑えきれない憤怒が滲んでいた。
「一体、何のために聖下を害する必要があったのですか?」
「それは、そこの嘆願書を見れば理解できる」
促されるまま、ジョージとソフィアは最後の書面に目を通した。
「……『国民皆開魂保険制度』撤廃の嘆願?」
「前連邦首長と前教皇聖下が推し進めていた、悲願の計画だ。現在、
「そんな……たったそれだけの理由で、聖下を殺したというのか!」
絶句する二人を前に、祖父は重苦しい溜息をついた。
「神は寛大だ。御使い少年Ⅹもおっしゃられた。『貴方には、会いたい人がいますか?』と。人は一人では生きられず、他者を尊重することこそがエクス教の教義の根幹だ。信徒でない者が富を貪るのは勝手だが、我らの信仰の核を、欲のために汚すことは断じて許されぬ。教皇聖下を手に掛けるという行為は、エクス教という存在そのものに対する宣戦布告だ」
寛容を旨とするエクス教が、明確に「敵」を定義した。それは未曾有の事態であった。
「……黒幕は、誰なのですか?」
「12貴族の主要な面々だ」
「「っ!?」」
自分たちもまた、その12貴族の血を引く身。自分たちの信じる連邦の頂点が、国の象徴と教会の首長を同時に殺めたというのか。帝国の皇帝が叫んでいた告発は、正義の叫びだったというのか。
「テロを実働させたのはラングレー卿。だが、裏で糸を引いたのは間違いなくアンドルーズ卿だ。やつは情報の隠蔽に関しては神業に近い。今回の調査でも、完全な証拠は掴ませなかったがね」
「そんなことが……」
祖父は椅子から立ち上がり、二人の前へと歩み寄った。
「今日、二人を呼んだのは他でもない。我々ホワイトマン家、およびエルスワース家は、本日をもって12貴族から脱退する」
「「……!」」
ソフィアは、あらかじめ父親が承諾していたという事実に、事の重大さを悟った。
ふと視線を向ければ、帝国軍服のビュートが微動だにせず立っている。ティアの話によれば、彼はかつて12貴族のラングレー家で不当な扱いを受けていたという。彼は今、この連邦の醜い内実をどのような思いで見つめているのだろうか。
「それから、二人とも
「えっ!? ですが、あそこには仲間が……」
円卓の騎士団は12貴族の子女の親睦会だ。しかし、そこに集う者たちの多くは家制度の歪みに悩み、個人の絆で結ばれた友人同士だった。
「気持ちは分かる。だが、距離を置きなさい。これからの動乱において、君たちは彼らと刃を交えることになるかもしれないのだ」
「敵……になる、というのですか」
「うむ。連邦はもう持たない。今、帝国との戦争が起きているが、それは崩壊の引き金に過ぎん。これからの連邦は『既得権益を守る側』と『正義を貫く側』で真っ二つに分かれるだろう。頼む、軽率な行動は慎んでくれ」
祖父はジョージとソフィアの肩を、諭すように叩いた。
友と敵対することへの恐怖。だが、団長であるアラス・エルメンドルフもまた、実家という呪縛から逃れられずにいた。いずれ自分たちも、運命に飲み込まれる日が来るのだろう。
「ところで、爺さま。帝国はなぜこの機密を我々に?」
「連中の標的はあくまで12貴族だ。だが、すべてを敵に回すほど彼らは愚かではない。教会に接触してきたのは、エクス教そのものを敵視していないという意思表示だろう」
「……12貴族を内部から分断するため、ですね」
「その通りだ。『帝国はエクス教とは敵対しない』。特使を通じて皇帝から届いたメッセージは、それだけだ」
「分かりました。聖騎士団に戻り、教会の守りを固めます」
「頼んだぞ。ソフィア嬢、ジョージを頼みますよ」
「はっ!」
考えるべきことは山積みだ。二人は覚悟を決め、執務室を後にしようとした。
「ああ、待ちたまえ。最後にもう一つだけ」
祖父の声に呼び止められ、二人は緊張に体を強張らせた。
「次代の教皇が決まった。聖女ニューズ・ニューポートが即位する」
「えっ、それって……」
「ああ、数百年ぶりとなる
続く