【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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Part-B

 星菱レイは早朝に日課の型稽古をこなし、シャワーを浴びた後、『かが』艦内の第二食堂で朝食を摂っていた。

 

 今朝のメニューは、卵かけご飯(TKG)定食。卵の生食は、皇国以外ではまず見られない文化だという。生卵は本来食中毒のリスクが高く、他国には生食の習慣自体が存在しない。だが皇国では、生産段階から厳格な衛生管理が徹底されており、生食を前提とした流通網が確立されていた。

 

 至福のTKGを享受できるのは、生産者、流通業者、そして艦内で腕を振るう給養員たちのたゆまぬ努力の賜物だ。レイは心の中で感謝しつつ、琥珀色の黄身へ静かに醤油を垂らした。

 

 至福の時を過ごしていると、背後から遠慮のない声が掛かる。

 

「よう、ゼロ」

「ゼロと呼ぶな」

 

 ノータイムでの拒絶。だが、三沢ゴウガは微塵もめげずに言葉を継いだ。

 

「知ってるか? 『士農工商』という言葉を。士は軍人、農は農家、工は職人、商は商人だ。俺の実家は『士』で最上位、お前の実家は『商』で最下位。つまり、俺の方が偉いってことだ!」

「……それは認識が違うぞ、ゴウガ」

「お、反論か?」

 

 何故かうきうきのゴウガ。まともに反応を返されたのが嬉しいのだろうか。

 

「軍人が健やかに活動できているのは、農家の皆さんの献身的な食糧供給があるからだ。だから正しくは『農士工商』。間違えるな」

「お、おう。……いや、結局『商』は最下位のままなのかよ!」

「別に、そこはどうでもいい」

「なんでだよ!」

 

 結局、またしてもツッコミを入れさせられた。そこへ通りがかった横田ユイが、苦笑混じりに声を掛ける。

 

「レイ、ゴウガ。そろそろブリーフィングの時間よ」

「今行く。……ご馳走様でした」

「へーい」

 

――

 

 ブリーフィングルームには、飛行科の隊員たちが集結していた。各自、小さなテーブル付きの椅子に腰掛けているが、その空気には実戦を控えた独特の緊張が孕んでいる。

 

 そこへ飛行長・春日ツクモ3等武佐と、その副官を務める大湊ヒフミ1等術尉が入室してきた。

 大湊ヒフミは、技術面での補佐を担うショートカットの女性だ。皇軍において、武官と技術・サポートを担う術官は、階級呼称が厳格に区分されている。

 

「あー、そのままで聞いてくれ」

 

 隊員たちが敬礼のために立ち上がろうとするのを、ツクモが手制して止める。彼はスクリーンの前に立ち、淡々と説明を開始した。

 

「まず、背景についておさらいしておこう」

 

 今回の任務は、新星系の警備である。

 

 新星系とは、ケフェウス座ベータ星系付近で発見された居住可能惑星を有する星系を指す。その第三惑星「ケブラ3229c」は、現在、皇国が出資する惑星開発公社による惑星改造(テラフォーミング)の最終段階にある。

 

 皇国はこの新星系を正式な領土として編入する予定であり、その実効支配を確実にするため、艦隊を派遣したのである。

 

 なぜ最初から駐留していないのか。それは、開拓の歴史において惑星開発中に軍事衝突が頻発し、多くの開発業者が犠牲になった反省によるものだ。

 その教訓から銀河国家群で結ばれたのが『地球条約』である。この条約では、惑星開発の「解禁日」を迎えるまでは、星系半径1光年圏内への軍隊の侵入が固く禁じられている。それまでは、どの国にも属さない完全な中立宙域なのだ。

 

 そして、その解禁日は目前に迫っている。皇軍は警護の名目で、期日丁度に星系へと突入すべく艦隊を動かした。

 

 ツクモが背景を語り終えると、説明のバトンを副官へと引き継ぐ。

 

「では、具体的な作戦行動について大湊1等術尉から説明させる。大湊、よろしく」

「はい。スクリーンに注目してください。まずは今回の布陣から」

 

 スクリーンに艦隊編成図が投影される。

 

 『かが』の所属する第04護衛隊群を始め、第02護衛隊群、地上部隊、補給艦部隊などで構成。機動運用部隊の半数が投入される大部隊だ。皇国の並々ならぬ執念が透けて見える。

 

「これらは『新星系警護統合任務部隊』として再編されます。指揮官は第04護衛隊群司令、新田原マコト武将補です」

 

 今回、群司令は自ら幕僚を率い、第08護衛隊所属のDDG-5176『ちょうかい』に旗を掲げている。

 

「作戦概要です。惑星開発解禁日の2月1日、新星系の星系圏(ヘリオスフィア)に着空し、直ちに部隊を展開。警護活動を開始します。一部の戦力は地上拠点の確保のため、星系内部へと移動します」

 

 立体スクリーンに、星系図を囲むような部隊配置図が表示された。

 

「第04護衛隊群は銀河基準面方位南側から、第02護衛隊群は北側から星系に侵入します。ここまでが現在想定されている作戦です」

「ありがとう、大湊。……あとは俺から補足する」

 

 ツクモが再び前に出た。その眼差しが、一気に鋭さを増す。

 

「今の説明が、事前に計画されたものだ。諸君らも察している通り、単なる警備で済まない可能性が極めて高い。統合幕僚監部の示唆によれば、赤壁連合がこの新星系を虎視眈々と狙っている」

 

 ツクモは一度言葉を切り、隊員たちの顔を見渡した。

 

「消息を絶った連合艦隊は、十中八九、この宙域に現れるだろう。我々の任務は、何よりも先に惑星を確保し、支配下に置くことだ。スピードが勝敗を分ける。正規軍同士の衝突を覚悟しておけ。この間の海賊とは次元が違うぞ。決して、油断するな」

 

 ケース別の対処法が説明され、ブリーフィングは終了した。『かが』にとって、そして少年少女たちにとって、初めての正規軍との激突。

 

 彼らは緊張を噛み締めながら、決意を新たにした。

 

 新星系警護統合任務部隊は指定宙域で最終補給を受け、運命の「解禁日」を待つ。

 

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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