【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
帝国の
帝国は既に10の星系州を陥落させている。だが、占領は一切行わない。貴族の身柄を拘束し、自治権を平民に委ねるのみだ。最低限の対人武器や食料などは提供するが、目的を達成すれば即座にその星系を離れ、次の標的へと旅立つ。
本来、領地を占領するには相応の戦力を防衛に割き、代官を派遣して管理する必要がある。しかし、帝国の目的はあくまで12貴族、およびそれに追従する貴族と軍の排除だ。それ以外の統治コストに貴重なリソースを投じるつもりは毛頭なかった。
そして今、帝国軍はついに本丸である12貴族の直接の領土へと攻め入ったのだ。
「広域
「どうした?」
機動要塞の司令室で星系探査の結果を確認していた少年祭司が、驚愕に声を震わせた。
「敵艦の反応、一千隻以上!!」
「何だと!? 間違いではないのか。機動兵器の誤認では?」
「いえ、機動兵器やHFとは明らかに波形が異なります! 出力こそ微弱ですが、紛れもなく艦船の反応です!」
霊探員の上官が詰め寄るが、少年祭司は首を振って否定した。
現代の軍艦は、その心臓部に製造の困難な
「まあ待て。艦種は判明したのか?」
騒然となる司令室の中央、重厚な指揮官席に座る皇帝は一人冷静であった。
「はっ! 現在データベースを照合中です! ……あ、判明しました! え……? 『戦列艦』と『砲艦』?」
聞き覚えのない艦種に少年祭司は困惑した。しかし、皇帝の反応は対照的だった。
「がっはっはっは!! そう来たか!」
「へ、陛下……?」
皇帝の突然の爆笑に、司令室のオペレータたちは顔を見合わせる。
「なるほど、なりふり構わず骨董品を持ち出してきたというわけですな」
皇帝の傍らに控える要塞司令も合点がいったようで、不敵な笑みを浮かべた。
「陛下。こちらは一隻で十分でしょう。戦艦『ビスマルク』を当たらせますがいかがでしょうか?」
「うむ、任せる」
二人のやり取りを、周囲の要員たちは「一千隻にたった一隻で挑むのか?」と疑念の目で見守る。
「ああ、それともう一隻、足の速いのを星系の反対側に回しておけ。ネズミ一匹逃がすなよ」
「御意。ならば巡洋戦艦『シャルンホルスト』を裏手に回しましょう」
司令室では、瞬く間に二隻の出撃準備が整えられていく。
「ビスマルク艦長、データは共有したか?」
『はっ! 司令。確かに、この程度の相手に群れる必要はありませんな』
戦艦『ビスマルク』の艦長もまた、冷徹に状況を把握していた。一千隻の敵影に対し、巨艦が単独で突き進んでいく。
「敵艦隊、移動を開始! ビスマルクを包囲するように半球状の陣形を展開しています!」
司令室の立体モニターに、敵の布陣が鮮明に映し出された。立体的かつ緻密な艦隊運動で、孤立したビスマルクを全方位から封じ込めようとしている。
「敵艦隊とビスマルク、距離2光秒を突破! 依然として攻撃はありません! ……いえ! 全敵艦より高エネルギー反応を検知!」
光学観測圏内に突入し、敵艦隊が牙を剥く。拡大モニターに映し出されたのは、艦側面に無数の砲口を並べた『戦列艦』と、巨大な砲身をそのまま船体にしたような異形の『砲艦』。それらが一斉に発光を開始した。
対するビスマルクは、回避運動すら行わず堂々と突き進む。
「敵艦隊、一斉射!」
モニター上の無数の光点が線を伸ばし、そのすべてがビスマルク一点に集中した。
「ビスマルク被弾! 集中砲撃、全弾命中を確認!」
光学カメラの視界は、爆発的な輝きに塗りつぶされる。
「ひ、被害状況は!?」
「高エネルギー干渉により電波攪乱が発生中! まもなく解析完了します!」
静寂が司令室を支配する中、再び映像が晴れた。
「……え? 無傷? あれほどの集中攻撃を受けて、損傷なし!?」
そこには、何事もなかったかのように宇宙を往くビスマルクの威容があった。オペレータたちは信じがたい光景に息を呑んだ。
そして、ビスマルクの反撃が開始される。
主砲の霊符滑腔砲や副砲の重力子砲を使うまでもない。艦側面に整列した近接防御用光子砲のハッチが次々と開き、レンズ状の砲口が覗いた。
発射された収束光子の束は、偏光フィールドによって正確に敵へと誘導され、光速の牙となって虚空を貫く。
本来、
光子砲の連射が描く幾何学模様の軌跡が、宇宙空間に無数の光の華を咲かせた。
「ぜ、全敵艦撃沈……。一千隻、すべて消失しました……」
オペレーターの声は、震えていた。