【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
静まり返った司令室に、ビスマルク艦長からの通信が入る。
『少しやり過ぎましたかな。資料用に一隻くらいは残しておくべきでしたか? 陛下』
「いや、余に骨董品を愛でる趣味はない。それより生存者がいるかもしれん。直ちに救助活動を開始せよ」
『御意』
淡々と業務が進められる中、若い司令室要員たちは未だに困惑を隠せない。
「驚くのも無理はないが、あの戦列艦も砲艦も、300年以上前の遺物だ」
要塞司令が、教え諭すように口を開いた。
現代の軍艦は
それ以前の船は、現在の客船や貨物船と同様の
武装も、霊子を含まない純粋な熱エネルギー兵器である「荷電粒子砲」。どれほど高出力であろうとも、軍艦の霊殻体を貫くことは叶わない。
「帝国も草創期にはあのような船を使っていたのだ。さらに遡れば、船首に衝角を付けて直接ぶつかり合い、接舷して白兵戦を挑んでいたという。豪快でいい時代だな! がはは!」
皇帝の補足に、オペレータたちはようやく事の真相を理解した。商船同等の技術で軍艦に挑む。それは大人と赤子の喧嘩のようなものだ。軍艦の霊子出力は商船の一万倍に達する。現代の近接防御兵装である光子砲すら、旧時代の主砲を遥かに凌駕する破壊兵器へと化す。
軍艦の歴史は、そのまま霊子出力を向上させる技術の歴史でもあった。
300年前、霊子技術が未熟だった時代。軍艦の防護は薄く、荷電粒子砲の一撃が致命傷となった。安価な霊力増幅機を大量に揃え、圧倒的な数で押し切ることこそが勝利の定石だったのだ。
巨大な戦列艦を数千、時には数万隻並べ、陣形を交錯させながら撃ち合う壮絶な消耗戦。
だが、その戦いはあまりに凄惨であった。一回の会戦で失われる命は膨大な数に上り、このままでは人類そのものが自滅しかねないという危機感が広がった。やがて大規模な艦隊戦は忌避されるようになる。
後に、HFの技術を転用した
歴史の授業を再現したような説明に、若手要員たちは感じ入った様子であった。
皇帝や司令がこの古色蒼然とした戦術を知っていたのは、彼らの世代までは必須教養として語り継がれていたからだ。最新技術にばかり目を向ける現代の若者には、縁のない話であったが。
「やはり、歴史の教育は疎かにできんな。敗因すら理解できぬのでは話にならん」
「左様で。しかし、現代の士官候補生には覚えるべき最新術式が山ほどございますから。優先順位は低いです」
「まあ、それも道理か」
期せずして帝国の教育論にまで話が及んだところで、第1機動隊群司令、ポーツマス大将から入電があった。
『陛下。シャルンホルストが不審な艦を拿捕しました』
ビスマルクの無双劇の裏側で、星系の反対側に回り込んでいたシャルンホルストが、逃亡を図る艦を捕らえたようだ。
乗っていたのは、ラインラント州の領主、ラムシュタイン卿。12貴族の一角を占めるその男は、領民や私兵が乗る一千隻の旧式艦を「肉壁」として使い、自分だけはまんまと脱出しようとしていたのだ。
『いかが処置されますか?』
「決まっておろう。これまでと同様だ。自らを犠牲にして囮にされた艦隊の生存者たちの前に、その肥え太った豚を突き出してやれ」
『御意』
ついに12貴族からも、直接の犠牲者が出る時が来たようだった。