【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「
「まあ、落ち着けシロウ」
思わず
シロウは短い休暇を得て、実家へ帰還していた。連邦軍統合参謀本部に務める兄も帰宅していると聞き、一目散にその部屋へと踏み込んだ。
「第5艦隊の待機命令についてだろう?」
「そうだ! なぜ帝国軍を追ってはいけないんだ!」
執務机を激しく叩き、シロウは兄を睨みつける。
シロウが所属する第5艦隊は、
「第5艦隊の被害は甚大だ。戦力の回復を最優先すべきだという判断だ」
「他の艦隊と連携すれば戦いようはあるはずだ!」
失われた仲間たちの顔が脳裏をよぎる。帝国軍をこのまま野放しにすることなど、シロウの矜持が許さない。
「他艦隊も似たような状況だ。連邦軍全体の機動戦力は、既に半数近くが失われている」
「しかし……!」
「お前の気持ちは痛いほど分かる。だが、これは参謀本部が決定した動かせない方針だ」
シロウは机から手を離し、荒い呼吸を整えようと努めた。
「教えてくれ、兄貴。なぜだ。残存戦力を結集すれば、まだ守りきれるはずだろう。他艦隊もすべて待機とは、このまま帝国に領土を蹂躙されろと言うのか」
「闇雲に追撃しても被害を拡大させるだけだというのが建前だ。現在は各州の防衛線を縮小し、重要拠点の警護を固める方針に切り替わった」
「重要拠点だと?」
「……12貴族の直轄領を中心とした星系だ」
「何だって……? それでは、他の州や市民はどうなるんだ!」
既に10を超える星系が帝国の襲撃を受けている。今のところ市民に直接の被害はないという報告だが、いつまでそれが続く保証もない。民を守るべき連邦軍が、市民を見捨てて貴族の私産を守るために閉じこもる。それはあまりに歪な姿だった。
「結局、12貴族。それも上位の爵位を持つ家々の意向がすべてを左右するということだ」
「そんなことが……」
「俺たちも、その恩恵を教授してきた立場だろう。いまさら綺麗事は通じない」
カデナ家もまた12貴族の一角だ。新参者ではあるものの、150年前に
「くそっ! 結局、軍すら貴族の私兵に成り下がったのか!」
「……いいか、これから話すことは他言無用だ。ラムシュタイン卿が帝国に襲撃され、拘束された。ついにお膝元まで手が伸びてきた。うちのグアム州も例外ではないだろう」
「ラムシュタイン卿が……ヒルデガルドの家か」
「第5艦隊が我がカデナ家の領地であるグアム州の防衛に回されたのは、そういうことだ。もし機動要塞がここへ現れたら、お前が頼みの綱だぞ」
グアム州は第5艦隊および第3機動騎士団の本拠地でもある。
「戦力を削られた状態で防衛に専念しろと……」
「それが、12貴族としての我々の義務だ。だが、この状況も長くは続かんかもしれん」
「……どういう意味だ?」
「皇国軍が動いた。フランクス王国の奪還作戦だ」
「皇国が……!?」
「ああ。既にフランクス領内への進出を確認している。フランクスとローマリアが解放されれば、帝国の補給路は遮断され、兵站が崩壊する。そうなれば、あの巨大な機動要塞とて立ち行かなくなる。いずれ帝国は撤退を余儀なくされる……。それが統合参謀本部の、情けない『読み』だ」
「自国の領土を守るのに、他国の軍隊頼みか……。何が銀河一の連邦軍だ。貴族の椅子を守るための盾に成り下がって、それで誇りが保てるのか。情けない……本当に、情けないよ……」
シロウは拳を握りしめ、悔しさを滲ませた。最強を自負してきた軍隊が、内側から腐り落ちていく現実。円卓の騎士団の団長、親友のアラス・エルメンドルフがかつて漏らした言葉が重く響く。
(アラスが言っていた『連邦の根源的な病理』――貴族社会の歪みが、いよいよ修復不可能なところまで来ている。……アラスも、今ごろ同じ地獄を見ているんだろうな。俺も、同じ泥を啜ることになっちまった……)
自らの無力さと組織の腐敗。その圧倒的な重圧に、シロウの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
続く