【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

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第四十九話 決断
Part-A


「かっ、固い!!」

 

 横田ユイの駆る零式HFが放った銃撃は、敵機ティーガーの強固な守りに阻まれた。

 

 射程ギリギリの正面からでは、ティーガーが掲げるラウンドシールドを貫けない。99式2号250mm連装機銃の斉射をもってしても、致命的なダメージを与えるには至らなかった。

 

 ユイは即座に距離を取り直そうとするが、敵も熟練の動きで執拗に食らいついてくる。操魂球(Cockpit Sphere)内の仮想空間でスティックを繊細に操作し、ユイは有利なポジションを奪取すべく急旋回を繰り返す。

 

 生身の体が異空間に保護されているおかげで、本来なら肉体を圧壊させるはずの高Gからは解放されている。しかし、視界を覆う空間グリッドのラインは、機体の激しい挙動に合わせて飛ぶように流れていく。

 

 球状モニターに投影される格子状の空間グリッドは、目印のない宇宙空間において自機の移動速度や方向を直感的に把握するための生命線だ。

 

 直進中ならグリッドは後方へ流れるだけだが、今は上下左右が目まぐるしく反転し、回転し続ける。もし生身のままでこの視覚情報を受ければ、三半規管を瞬時に狂わされ、強烈なめまいに襲われるだろう。

 

 空色の零式と灰色のティーガーは、真空のキャンバスに複雑な幾何学模様を描き出す。相手の背後を狙い、かつ旋回による速度低下を最小限に抑え、総エネルギーを維持する高度な機動戦。

 

 時間にして十秒に満たない刹那の格闘の末、零式の圧倒的な運動性とユイの研ぎ澄まされた技量が、ついに敵の背後を捉えた。

 

「逃がさない!」

 

 敵機は必死のバレルロールで振り切ろうとするが、ユイの照準は既にその目標へピタリと合わせている。指先が、滑らかにトリガーを絞った。

 

 肩の連装機銃から放たれた霊銀徹甲弾(Mithril Armor Piercing)が、ティーガーの右肩を容赦なく撃ち抜く。シュマイザー短機関銃を握っていた右腕が、火花を散らして根元から引きちぎられた。

 

 この損傷では、霊子出力が低下し、もはや戦闘継続は不可能だ。敵パイロットも即座にそう判断したようで、胴体中央から操魂球が射出された。撃墜を確認。ユイにとって、対帝国戦における記念すべき初の戦果(スコア)となった。

 

(99式機銃なら、ティーガーの装甲にも確実に通じる。前の89式小銃だったら、今のも弾かれていたはずだわ)

 

 新装備の有効性が実戦で証明された形だ。合同訓練リムロックでの苦い経験は、決して無駄ではなかった。

 

『01。こちら02。そっちは大丈夫?』

 

 僚機である星菱レイから通信が入る。彼が的確に周囲を牽制してくれていたおかげで、一対一の状況に集中することができた。

 

「02、こちら01。ありがとう、大丈夫よ。そっちの状況は?」

『うん、こっちも片付いたよ。これで敵HF10機、すべて撃墜を確認。さっきのが最後の一機だった』

「そう……。意外と少なかったわね。領邦軍がもっとこの星系に戦力を割いているかと思ったけれど」

 

 先ほど交戦したのは、帝国国防軍特有の黒灰色の塗装ではなく、明るい灰色を纏った領邦軍のティーガーだった。

 

 帝国国防軍がフランクス王国を蹂躙した後、占領地の維持管理は領邦軍に委ねられている。フランクス解放のために進軍する皇国軍は、まずこの領邦軍を排除しなければならなかった。

 

 フランクス解放統合任務部隊は、現在艦隊を二分し、旧首都惑星パリーヌを目指している。第01、第03護衛隊群と自由フランクス艦隊からなる主攻部隊。そして、敵を引き付ける囮役を担う第02、第04護衛隊群だ。国王シャルルⅢ世を一日も早くパリーヌへ送り届けるため、ユイたちの部隊は敵の注意を惹きつける役割を担っていた。

 

 現在のシャルトル星系において、狙い通り領邦軍との接触を果たしたが、敵の抵抗は予想を下回るものだった。HFの数も少なく、第一中隊の戦力だけで事足りてしまった。かといって、他の地域に戦力が集中している様子もない。

 

『トロワと連絡を取ったんだけど、フランクス各地でレジスタンスが蜂起して、帝国軍を攪乱しているみたいなんだ。それで敵の戦力が分散しちゃってるんじゃないかな』

 

 王国の奪還には、外側からの武力介入だけでなく、内部からの呼応が不可欠だ。その歯車が、今ようやく噛み合い始めていた。

 

「なるほどね。……この間のトロワさんの演説が、人々の心に火をつけたんだわ」

 

 ノルマンディー星系への進出と同時に、銀河ネットを通じて全土へ発信されたトロワの帰還宣言。あの熱烈な訴えは、占領下の民衆に希望を与え、帝国の統治を揺るがせていた。

 

 領邦軍の勢いは弱く、パリーヌ到達への道筋は見えつつある。

 

 だが、本番はこれからだ。太陽系で見せた猛追のように、帝国国防軍がこのまま沈黙を続けるとは考えにくい。本当の地獄は、彼らが姿を現した時に始まる。

 

「それじゃ、一度帰艦しましょう。休めるうちに休んでおかないとね」

『了解』

 

 第401飛行隊第一中隊は、母艦であるDDH-5184『かが』へと帰還した。次に来るべき、本物の戦いに備えるために。

 




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【完結】NGチルドレン【EVAFF】もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
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