【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ナユに腕を引かれ、ユイは人気のない居住区の休憩スペースへと連行された。
「で、改めて聞くわ。本当に付き合ってないのね?」
「うん……」
ここ最近のユイの変化は、ナユの目から見れば一目瞭然だった。レイを見る眼差し、不意に見せる赤らんだ頬。無意識に向けていた巨大な好意を、彼女がついに「自覚」したのは明白だった。ユイの直情的な性格からして、とっくに告白を済ませて交際を始めているものとナユは信じて疑わなかったのだ。
「なんでよ! 好きなんでしょ? レイ君のこと」
「う……す、好きだけど……」
「じゃあ、なんで伝えないのよ!」
ナユの知るユイは、一度目標を定めれば一直線に突き進む猪突猛進の少女だ。好きだと分かった瞬間に当たって砕けるタイプのはず。
「だって……今、戦争の真っ最中じゃない。フランクスが解放されるまでは、私情で浮かれたりしちゃいけない気がして。戦いが終わって、落ち着いてからでもいいかなって……」
「はあぁ!?」
「ひぃ、声が大きいわよナユ」
「それはそれ、これはこれよ! 命短し恋せよ乙女! 何を悠長なことを言ってるのよ!」
「いや、
「そういうこと言ってんじゃないわよ!」
「ううっ」
今のユイには、いつもの覇気がない。ナユは鋭く核心を突いた。
「あんた……もしかして、『レイ君に断られるのが怖い』なんて思ってんじゃないでしょうね?」
「ぐはぁっ!」
「……図星か」
軍務では冷静沈着で頼りになるユイも、恋愛に関しては初等部並みに臆病だった。幼馴染としてあまりに長い時間を共有してきたことが、逆に変化への恐怖を生んでいるのだろう。
(やれやれ。この恋愛マスターナユちゃん(※年齢=彼氏いない歴)が、ひと肌脱いで背中を押してあげますか)
「あのね。ユイの隊のケイちゃんが、付き合い始めたのは知ってる?」
「えっ! 誰と!?」
「やっぱり知らなかったか。ガイ君よ」
「ほ、本当に!?」
「ええ、本人から直接聞いたから間違いないわ」
「し、知らなかった……」
「赤壁戦争で人質になったとき、ガイ君が『何があってもケイを守り抜く!』って奮起してね。その一途な想いが、ついに通じたみたいよ」
「ああ、だから最近、ガイの訓練に対する姿勢が凄まじかったのね……」
最近ふわふわと落ち着かない様子のケイを、ナユが問い詰めたら、あっさりと白状した。なぜ今なのかと聞けば、ガイは『いつ命を落とすか分からない戦場だからこそ、今伝えたかった』と答えたという。ただの熱血バカかと思っていたが、なかなかどうして、男を上げたものだ。
ユイの考えは、その対極にある。『戦争が終わったら』なんていうのは、死亡フラグの最たるものだ。
「いい? さっさと告白しなさい。部下の勇気を見習いなさいよ」
「うう……でも……」
「さっき見たでしょ、レイ君はモテるのよ。早くしないと他の子に横っ攫われるわよ。私だって、もしかしたら……」
「えっ?」
「……冗談よ。私は王子様一筋なんだから。私のことはいいから、さっさと決着をつけなさい。レイ君が断るはずなんてないんだから」
「そ、そうかな……」
レイが断るなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。レイにとってユイは絶対的な中心軸だ。なんか崇拝に近くて恋愛とかとちょっと違う気もするけど。だからこそ、ユイがその一線を越える言葉を口にすれば、レイの内面もまた、大きく塗り替えられるはずだ。
「背中は押したわよ。あとは、あんた次第」
ナユはそれだけ言い残すと、ユイをその場に残して去っていった。
――
一人残されたユイは、静まり返った通路で自らの胸に手を当てる。
(確かに……帝国国防軍が本格的に介入してきたら、これまでの比じゃない激戦になる。もし、何も伝えないまま死んじゃったら……そんなの、絶対に嫌だ)
脳裏に浮かぶのは、かつての友であり、今は敵となったヒルダの言葉。
『愛よ!』『私は最愛のジークと結婚した!』
一歳しか違わないヒルダは、既に運命の相手を見つけ、添い遂げる決意を固めた。
(さすがに結婚はまだ早いけど……)
それでも、彼女の言葉に宿っていた揺るぎない強さは、今のユイにとって眩しく、そして羨ましかった。
レイはあまりに近すぎる存在だ。この心地よい関係が壊れるのは、死ぬほど怖い。けれど、自分はレイが大好きで、そしてレイもまた、自分を必要としてくれていると信じられる。
あと一歩。ナユが押してくれたその一歩を、今こそ踏み出すべきだ。
「……行くわよ」
レイはかつて「前を向いていてほしい」と言ってくれた。ならば、その期待に応えなければならない。当たって砕けろ――いや、絶対に砕けたくはないけれど。
ユイは決断した。前に進むために。
続く