【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
地球自由連邦、ハンプトン州。その州都が置かれた惑星ユースティス。
澄み渡る青空を覆うように、巨大な月が浮かんでいた。視界の三分の一を占めるほどの圧倒的な質量。その正体は、帝国の
本来、天体がこれほど惑星に接近すれば、
だが、現在ユースティスには何一つ異変は起きていない。機動要塞が霊符着空機に相当する機能によって周辺空間を強制的に安定させ、要塞自身の重力影響を外部へ漏らさぬよう封じ込めているからだ。その超常のテクノロジーこそが、惑星直近への
重圧感に押し潰されそうな空の下、一人の男が地面に跪いている。
男の名は、サミュエル・ラングレー。ハンプトン州の領主であり、連邦を裏で操る12貴族の一員だ。
この惑星で最も強大な権力を持っていたはずの彼は、今、後ろ手に手錠を嵌められ、帝国軍兵士たちに包囲されていた。
場所はラングレー家の壮麗な屋敷の庭園。そこへ、上空から一機のHFが舞い降りてきた。黒灰色に塗装されたHFF-15E ストライクイーグル。重力制御によって羽毛のように軽く降下し、庭園の中央に音もなく着地する。
HFから降り立ったのは、帝国軍の軍服に身を包んだ男。彼は軍帽を脱ぐと、跪くラングレー卿の目の前まで歩み寄った。
「お久しぶりです」
聞き覚えのある声に、ラングレー卿がゆっくりと顔を上げる。
「……おお! ビュートじゃないか!」
その声には、身内が現れたことへの安堵と、一縷の希望が混じっていた。
「はい。おじさん。……すまんが、彼の手錠を外してくれ」
「はっ! アーガイル大尉!」
後半の指示は、周囲の兵士へ向けられたものだった。命令に従い、手錠が外される。ラングレー卿は、痺れた手首をさすりながら立ち上がった。
「ありがとう、ビュート。君は……本当に帝国軍人になってしまったのだな」
「はい」
「……ユースティアは、娘は元気かね?」
「はい。健やかにしていますよ」
鋭い視線を向ける帝国兵たちの包囲下で、場違いなほど他愛のない会話が交わされる。
「そうか……。私は、このまま帝国軍に拘束されるということでいいのかね?」
「そうなります。……ですが、私の方から解放できるように話を通しましょう」
「おお! 流石はビュートだ! 恩にきるよ!」
歓喜に顔を綻ばせ、ラングレー卿がビュートに抱きつこうとした。だが、ビュートはその体を受け止めず、冷徹な声で耳元に囁く。
「
ラングレー卿の体が、目に見えて強張った。
彼は突き飛ばすようにビュートから離れ、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なぜ、あの部屋のことを知っている!?」
「調べさせていただきました」
「き、貴様……! 我が家で育ててやった恩を忘れおって!」
(育てた……か)
ビュートの脳裏に、かつての記憶が不快なノイズのように走った。
アーガイル家の両親が不慮の事故で亡くなった直後。10歳だったビュートは、遠縁の親戚と称するラングレー家に引き取られた。
だが、そこでの扱いは家族などとは程遠いものだった。住まわされたのは屋敷の片隅にある掘っ立て小屋。食事は残り物、ラングレー家の息子たちからは執拗な暴力を受け続けた。暗い孤独の中で、唯一幼いティアだけが彼を慕ってくれたことだけが救いだった。
12歳で軍学校に入学し、寮生活を始めるまで、彼の少年時代は絶望の色に染まっていたのだ。
ビュートは苦い過去を表情に出さず、淡々と答える。
「あの部屋を捜索し、不審なものがなければ解放しましょう」
「……分かった。降参だ、好きにしたまえ」
ラングレー卿は観念したかのように、力なく両手を挙げて降参のポーズを取った。
だが、挙げた右腕の手首をわずかに捻った瞬間、手の甲側から10cmほどの鋭利な刃が飛び出す。ビュートの死角を突く、熟練の暗殺技術。
卿は最短距離でビュートの喉元を突き刺そうと肉薄する。
「死ねッ!」
だが、ビュートは既にそれを予見していた。鋭いバックステップと同時に、
ラングレー卿の右手首は、隠し武器ごと宙に舞った。
「ぎゃあああああ!!!! 私の腕が、腕がぁぁ!!!」