【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
執務の合間を縫って、再びレイの姿を探すユイ。
確かこの時間は、武闘場にいるはずだ。足早に向かうと、ちょうど汗をタオルで拭っているレイの背中が見えた。
「あ、レイ! あのね……」
「よし! もう一本だレイ! 来い!」
ガイの野太い大声にかき消された。どうやら試合の最中だったらしい。邪魔をしては悪いと判断し、ユイは壁際で見守ることにした。
ふと視線を転じれば、ケイが試合場の外で祈るように応援していた。ユイは音を立てずに近づき、彼女の隣に並ぶ。ケイは拳をぎゅっと握りしめ、真剣な眼差しで場内を見つめていた。夢中になりすぎて、ユイの存在にすら気づいていない。
「ケイ」
「ひゃあああっ!? ……あ、ユイか。ビックリしたぁ」
「ガイ、頑張ってるね」
「え、うん。剣術の腕はまだまだだけどね、あいつ」
武闘場に、乾いた木刀の音が響き渡る。ガイが猛烈な勢いで攻め込み、レイがそれを受け流すという構図だ。
「いいぞガイ。ちゃんとフェイントも織り交ぜられるようになってきたな」
「おうよ! まだまだ行くぜ!」
ガイは全力で打ち込んでいるが、レイは片手で軽くいなしている。実力差は依然として歴然だが、ガイの成長も著しい。
ユイはその光景を眺めながら、ずっと気になっていたことをケイに尋ねてみた。
「ねえ、ケイ」
「ん?」
「ガイと付き合ってるって、ホントなの?」
「ぶふぅっ!?」
あまりに不意を突かれたのか、ケイが盛大に吹き出した。
「なななな、なんでそのことを……ああ、ナユちゃんね」
「うん。……ごめん、内緒だった?」
「うーん、大々的に宣言することじゃないけど、隠し通すつもりもないかな」
「そっか。……告白は、どっちから?」
「……あのね。ガイから、言ってくれたの」
その時の情景を思い出しているのか、ケイは顔を真っ赤にして、ぽつりぽつりと話し始めた。
「太陽系に到着した時、ね。これから戦闘が激しくなるから、心残りが無いようにしたい、って」
「……よかったね、ケイ」
「うん。……えへへ」
ユイは心から、友人の幸せを祝福した。仲の良い二人が結ばれた事実は、彼女にとっても大きな勇気となった。
幸せそうに照れるケイを微笑ましく見守り、再びレイの方へと視線を戻すが。
「あれ? 二人は?」
「ああ、もう終わってシャワー浴びに行ったみたい。私も行ってくるね!」
またしても、ぽつんと一人取り残されるユイ。
「またタイミング逃した……!」
――
「んもー、何でこんなに間が悪いのよ!」
あれから何度かレイと二人きりになろうと試みたが、ことごとく不運に見舞われ、未だに実現できていない。
苛立ちを隠せず早歩きで通路を進んでいると、向こうから歩いてくるレイの姿を捉えた。
「あ! レイ! あのね!」
もう後先は考えない。勢いに任せて呼び止めた。だが。
『全艦、第一種戦闘配備! 星系外縁部に帝国軍と思われる艦隊が
無情な警報と共に、緊急放送が響き渡る。
「あぅぅ、レイ、行くよ!」
半ば涙目で駆け出すユイ。レイも即座に後に続くが、ユイのあまりに追い詰められた様子に違和感を抱いていた。
――
帝国領邦軍の小隊をあっさりと退けた後、山積した執務に追われ、またしても時間を浪費してしまったユイ。
肩を落として、とぼとぼと通路を歩いていると。
「ユイ!」
後ろから、名前を呼ばれた。
「……レイ!?」
完全に不意を突かれた。レイは迷いのない足取りで、ユイの前まで真っ直ぐにやって来た。
「ユイ。……この間からボクに何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「!?」
やはり、様子がおかしいことに気づかれていた。ユイは察してくれたことへの嬉しさと、あまりの恥ずかしさで、心がぐちゃぐちゃにかき乱される。
「あ、あぅ……」
「ユイ?」
「な、なな、なんでもなーーい!」
パニックに陥り、その場から逃走しようとするが。
「待って!」
ガシッ、と両肩を力強く掴まれ、正面から視線を固定される。
(近い! 近い近い近い!)
至近距離で真剣に覗き込んでくるレイに、ユイの心臓は爆発寸前まで跳ね上がった。
「ユイ」
「ひゃい!」
「深呼吸しよう」
「へ?」
「吸って……吐いて。吸って……吐いて……」
レイのリードに従い、必死に呼吸を整える。
「……少しは落ち着いた?」
「……うん」
心臓の鼓動はまだ早いが、パニックの霧は晴れたようだ。
レイは彼女がもう逃げ出さないと確信したのか、掴んでいた手をそっと放した。ユイは、喉の奥まで出かかっていた言葉を、ようやく絞り出す。
「あ、あのね」
「うん」
「……アタシのこと、好き?」
「好きだよ」
迷いのない、食い気味なほどの即答だった。
「ほんとに?」
「本当だよ。ボクはユイが好きだ。心から」
真っ直ぐに瞳を見つめられ、告げられた。確信はあったはずなのに、いざ言葉として受け取ると、世界が輝いて見える。素直に、天にも昇るほど嬉しかった。
……が、喜びを噛み締める間もなく。
「はぁ……」
「……ちょっと、何よその溜息は!」
何故か深い溜息をついたレイに、ユイは動揺して詰め寄った。
「やっぱり、覚えてなかったんだね」
「な、何のことよ?」
「あの日。ボクの母親の、お葬式の時。ユイは、座り込んでいたボクの手を取ってくれたよね? ……あの時のこと、覚えてる?」
「え? ……ええ、もちろん覚えてるわよ」