【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
「ブルーリボン01、こちらホワイトアイ。……だめ、やっぱりエーテル層が荒れすぎて
『……ホワイトアイ……こちら……ブルーリボン01……了解……した……』
通常使用される
コールサイン『ホワイトアイ』の横須賀リンは、ほぼ静止状態。通信相手のコールサイン『ブルーリボン01』の横田ユイは、光速の70%で移動中。
いわゆる「ウラシマ効果」により、ユイの側では時間の進みが静止系の約1.4倍遅れている。この相対論的な時間のズレが、通信の致命的な遅延を招いていた。
なぜそんなことになっているかというと、今この戦域となる星系が極めて特殊な環境にあるためだ。
数時間前、第1霊電子艦隊からの緊急報告を受け、皇国軍第03、04護衛隊群はバルラーン星系外縁部へと
このバルラーン星系には居住惑星はおろか、資源採掘の拠点すらない。無人ステーションがあるだけの星系だ。
だが、その中心には「中性子星の連星」が鎮座していた。
ブラックホールには及ばずとも、中性子星は想像を絶する高密度天体である。それが互いの周囲を猛烈な速度で公転し、周囲の時空を激しく波打たせ、強大な重力波を撒き散らしていた。この高重力はエーテル層を乱し、霊子関連に障害が出ている。
帝国国防軍艦隊が、ここを戦場に選んだのも偶然ではなく、この環境だからだろう。皇国との霊電子戦で後れを取っているため、その差を無くすためだ。
こうなっては各機の光学探索に頼るしかなく、リンの早期警戒管制機は役に立てない。
「ユイ、みんな……。気をつけて……」
――
帝国国防軍の第3、4機動隊群は、バルラーン星系の反対側に着空したと推測される。『かが』より発艦した401飛行隊第一中隊は、星系中心の連星が放つ重力井戸を大きく迂回し、敵艦隊の捕捉を目指していた。
「いい、みんな! 絶対に中心部へ近づきすぎないで! 一度高重力の『坂』に捕まれば、二度と戻ってこれなくなるわ!」
ユイの指示に、各機から短く了解の応答が返る。中隊内のHF同士は同一速度で移動しているため通信の遅れはないが、いざ戦闘が始まれば連携は困難を極めるだろう。今のうちに基本事項を徹底させるしかない。
現在、敵主力HFもこちらの艦隊を狙って出撃しているはずだ。そのため、母艦の守りは『ひゅうが』所属の301飛行隊が直掩を引き受けている。401飛行隊に課せられた任務は、広大な星系内から敵をいち早く見つけ出し、迎撃すること。艦隊から哨戒用の魚雷も出しているがHFに対しては無力だ。HF同士で先に見つけた方が有利になる。
仮想視界には、連星を中心に球状の境界線がワイヤーフレームで投影されている。この境界線より内側は、重力の影響で霊子出力が急激に減衰する危険地帯だ。機体性能が著しく低下するだけでなく、中性子星へ向かう自由落下が始まれば、時間の遅れによって脱出の機会さえ永久に失われかねない。
第一中隊は、この死の境界線をなぞるように高速飛行を続ける。敵も同様のルートを通るはずだ。もしここで敵を見逃せば、味方艦隊が襲撃を受けることになる。
境界に踏み込まぬよう、かといって離れすぎて遠回りにならぬよう。ユイたちは針の穴を通すような緊張感の中、全力で虚空を駆けた。
普段なら機体を包む彗燐光が航跡を描くはずだが、強い重力干渉によりそれすらも抑制されている。索敵が困難を極める中、帝国国防軍のHFが採用している黒灰色の塗装は、暗黒の宇宙に完璧に溶け込んでいた。
対して皇国のHFは、三沢ゴウガの発案による深緑色の統一色。こちらも十分に隠密性は高いが、あくまで偶然の結果である。
むしろ、隊長機であるユイの空色の零式は、中性子星の輝きに照らされ、誰よりも目立つ存在だった。僚機であるレイの赤色の機体も、暗色とはいえ深緑よりは視認しやすい。
だが、ユイはそれでいいと考えていた。目立つということは、それだけ敵の注意を惹きつけられるということだ。自分とレイの二人であれば、たとえ数的不利に陥ろうとも凌ぎきれる。それほどまでに、彼女は隣を飛ぶ
そろそろ中間地点。会敵するならば、このあたりのはず。
ユイは意識を集中させ、光学センサーとしてのHFの『目』の感度を限界まで引き上げた。HFにとって、外部情報は素体にあるこの単一の感覚器に依存している。生身の人間のような五感は持たないが、それゆえに視覚情報の変化には敏感だ。
直接敵機を探すのではなく、背景となる星々の輝きの「わずかなゆらぎ」を注視する。
視界の端で、遠方の星が一度だけ、瞬いた。
大気のない真空で、星光が瞬くはずがない。何者かが、一瞬だけ光を遮ったのだ。
「敵機発見! ブルーリボン01、エンゲージ!!」