【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
ユイは迷わず、光が途切れた座標へと機体を向けた。
戦術システムが遅れて敵を認識し、赤いマーカーを灯す。そのシルエットから推察された機種は、HFF-111C アードヴァーク。
それは、ユイが最も再会を望み、同時に最も望まなかった相手だった。
近接戦闘に備えて薙刀を構え、正面から敵機へとぶつかっていく。
「ヒルダ!!」
『ユイ!!』
長柄の武器が激突し、凄まじい火花が散る。接触通信を通じて、二人の叫びが重なった。
『会いたかったぞ、ユイ!』
「アタシは、こんな場所で会いたくなかったわよ!」
互いの武器を激しく叩きつけ合いながら、亜光速の格闘戦が幕を開ける。
『再会を喜びたいところだが、任務だ、容赦はしない! 全力で行かせてもらうぞ!』
「だから、喜べないって言ってるでしょ!」
ユイのツッコミを流し、ヒルダは一度距離を取った。
『ユイ! 愛は手に入れたか!?』
「愛……かどうかは分からないけど力は貰ったわ!」
『そうか! あの赤毛の少年か!』
「ぐっ! そ、そうよ!」
『では愛の力の勝負と行こう! 私は新たな力を手に入れた!』
「新たな力!?」
ヒルダのアードヴァークが、愛用の
『炎神ローゲよ! 我が槍に不滅の劫火を纏わせ、愚かな敵を焼き尽くせ!
長槍の穂先に赤く光る文字が浮かび、眩しく輝く炎を纏う。ここは真空で空気はない。この炎は魔術の炎。
「ルーン魔術!?」
ヒルダは炎の槍を豪快に振り下ろす。ユイは薙刀で受けようとしたが、本能的な危機感に従い、紙一重で身を翻した。
『よく避けた! だがこの魔術の炎の刃は、あらゆる装甲を切断する! これこそが愛の力だ!』
ルーン魔術は帝国でのみ使われる魔術だ。元連邦の捕虜であるヒルダが使える訳はない。この短期間で習得したということか。なるほど愛かもしれない。
「でも、アタシだって……ただ指をくわえて見てたわけじゃないのよ!」
――
ユイが先陣を切って突撃したのとほぼ同時に、レイもまた別の敵影を捉えていた。
ユイが戦うアードヴァークの僚機。それは、以前太陽系で刃を交えた、赤と青のラインを配した白いイーグルだ。
「あの時の、二刀流の少女か」
前回の接触では機動力こそ脅威だったが、剣術の冴えは自分には及ばなかった。今は一刻も早く敵を退け、ユイの援護に回らなければならない。
相手は既に二本のショートソードを逆手に構えている。レイもまた、愛用の太刀と小太刀を抜き放った。
互いの距離が急速に詰まる。だが、間合いに入る寸前で、白いイーグルの動きが加速した。ショートソードが描く残光が、空中に鮮やかな文字を刻む。
「魔術攻撃!?」
レイは知る由もなかったが、それは移動と車輪を象徴するルーン文字
「手裏剣か!」
前回「クノイチのようだ」と感じた予感は正しかったらしい。今度は忍術じみた飛び道具まで繰り出してきた。
だが、その威力を侮ることはできない。魔術的な破壊力を秘めたその「手裏剣」は、霊子の防御を容易に貫通する。太刀で弾こうとすれば、逆にこちらの武器がへし折られる可能性が高い。
レイは最低限の回避でそれを凌ぐが、その刹那、白いイーグルは慣性に逆らうような高機動で死角へと回り込んでいた。魔術を単なる攻撃手段ではなく、コンビネーションの起点として完全に使いこなしている。レイは気を引き締め直した。
――
ユイはこれまで、薙刀のリーチを最大限に活かす広域の間合いを主としていたが、今は敢えて柄の中ほどを握り、短く持ち直していた。
炎を纏ったヒルダの長槍が鋭い突きとなって迫る。ユイは後退するのではなく、逆に前方へと踏み込んだ。
長槍の刺突を首の皮一枚で躱すと、そのままヒルダの懐へと潜り込む。最短距離で振り抜かれた薙刀の石突が、アードヴァークの腹部を強烈に打撃した。
『ぐはっ! ……やるなユイ、急に動きのキレが上がったか!?』
「これが、アタシたちの新しい力よ!」
『愛の力というわけか!』
「……そうよ! 愛よ!!」
売り言葉に買い言葉で叫んでしまったが、実際には理論的な裏付けのある新技術だ。今ユイが見せたのは、機体全体ではなく「腕」や「脚」といった特定の部位に運動エネルギーを集中させ、部分的に物理限界を超えた速度を引き出す高等技術である。
この術理は、フランクスのトロワから直々に伝授されたものだった。剣術の達人であり、HFの設計思想にも精通するトロワならではの、身体操作と機体制御を融合させた発想だ。
トロワによると、実は
開魂者が身体強化するとき、脳内の
そのプロセスをHFの各パーツに適用するのだが、実行は困難を極める。パーツごとの慣性制御が少しでも狂えば、機体は自壊するか、糸の切れた人形のように不恰好な動きを晒すことになる。ユイはこの制御をモノにするため、凄絶な訓練を重ねてきた。ヒルダの言う「愛」ではないが、「努力の賜物」とは言えるだろう。
ちなみに、相棒のレイにこの話を共有した際、彼は、
「ああ、そういうことか」
「……レイ?」
「今まで、なんとなく感覚で似たようなことしてたみたい」
「……何でそれを先に言ってくれないのよ!」
「言葉にするのが難しくて。でもトロワの話を聞いて、やっと理屈が分かったよ」
と飄々としていた。これは愛とかではない。