【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
白いイーグルが放つ魔術手裏剣を、最小限の挙動で回避し続けるレイ。
敵の攻撃は苛烈で隙がないが、数合交わしたことでその周期を完全に見切った。レイは守勢から一転、攻勢に転じる。
再び手裏剣状の術式が放たれた瞬間、レイはこれまでのような回避を選ばなかった。魔術の弾道をあえて無視し、死角から迫る白いイーグルへと最短距離で肉薄する。不意を突かれた敵機は、反射的に二刀を十字に構えて防御の姿勢をとった。
前方には迎撃態勢の白いイーグル、背後からは追尾してくる魔術手裏剣。
敵機に抑え込まれれば手裏剣が背後から直撃し、手裏剣を避ければその隙をイーグルに斬られる。絶体絶命の包囲網。だが、接触した零式は、そのどちらの運命も拒絶した。
レイは心の中で呟く。
(テン・シント流太刀術極意、ハンゲツの太刀)
レイは敵の二振りのショートソードを、手にした太刀一振りで受ける。その接触を支点に、機体の各部へ部分的な運動エネルギーを付与。敵機ごと半回転し一瞬にしてイーグルと位置を入れ替えた。本来は特殊な歩法で行う技だ。
今度は、イーグルの背後から自らが放った魔術攻撃が襲いかかる。
パニックに陥った敵機が背後の手裏剣を警戒し振り返った。レイはその致命的な隙を見逃さず、小太刀の一閃で敵の両脚を膝元から切断。大破した白いイーグルの胴体から、即座に
――
ユイは何度かヒルダのHFの懐に飛び込むが、有効な攻撃が与えられない。距離を取ってしまうと炎を纏った刃に真っ二つにされてしまう。
ヒルダもユイが懐に飛び込むのを警戒し、距離を取ろうと後退。
その一瞬の間が開いたとき、ユイは小さく息を吐き心で呟く。
(テン・シント流薙刀術極意、ムゲンの薙刀)
ユイは薙刀を流れるような動作で回転させ、あえて背中側に回した。そして空いた片手を、挑発するようにヒルダへと向ける。
『……なんだ、その無防備な構えは?』
ユイは答えず、じっと相手を見据える。ヒルダはその沈黙に不気味さを感じつつも、勝機と見て一気に勝負に出た。
上段から、炎を纏う長槍が断頭台のごとく振り下ろされる。ユイは正面から受けず、半身を引いてその一撃を回避。避けた反動で、大きく背中を晒す。
ヒルダはその無防備な背を狙い、槍を即座にかち上げる。炎の軌跡がV字を描き、零式の胴体を切り裂く――はずだった。だが、ユイの背後にあった薙刀の石突が、ヒルダの槍の柄を止めた。死角からの斬撃を完全に防がれる。
『な……っ!?』
ユイが背を向けたのは、完全な誘いだった。
ユイはそのまま機体を反転させ、長槍の柄を石突で跳ね上げ、反対側の刃で一気に断ち切る。石突と刃による、
「これこそが、レイと磨き上げた愛の力よ!!」
師範の指導の下、二人で切磋琢磨した修行の成果。そう言っても差し支えないが、叫んだ直後、ユイの顔は恥ずかしさで耳まで真っ赤に染まった。
武器を破壊されたヒルダだったが、即座に残った炎の穂先をユイへと投げつける。
ユイが身構えた瞬間、その穂先が猛烈な閃光を放った。ユイの視界は真っ白なノイズに埋め尽くされる。
「しまった、目潰し!?」
即座の反撃を警戒し、防御姿勢をとるユイ。だが、数秒後に視力が回復したときには、ヒルダの機体は既に遠ざかっていた。
『ティア、無事か!』
ヒルダは眩惑に乗じて、撃墜された僚機の救出に向かっていた。レイが仕留めた直後の操魂球を、彼女は鮮やかな手際で回収していく。
あの混乱の戦場、かつ一瞬の隙に僚機を救う判断。ユイは敵ながらその手際に舌を巻いた。
『……ユイ。どうやら決着は持ち越しのようだな。だが、どちらの愛がより強固か、まだ答えは出ていないぞ! 次の戦場で決着をつけよう!』
不敵な言葉を残し、ヒルダは通信を断って戦域を離脱していった。
ユイは追撃に移ろうとしたが、部隊チャンネルから他の隊員の被弾報告が届き、救助を優先した。この高重力の「球面境界」へ引き込まれれば、自力での生還は不可能だ。一刻の猶予もない。
帝国国防軍艦隊の阻止には成功した。しかし、敵の主力を殲滅するには至らない。それでも、首都パリーヌ開放への大きな障壁を排除できたのは確かだ。
「もう……。戦場では二度と会いたくないって、いつも言ってるのに……」
ユイは小さく溜息をつき、去りゆく友の残光を見つめていた。
続く