【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
銀河国家群における地位の序列において、皇国の女帝、帝国の皇帝、王国の国王らは頂点に位置するが、宗教指導者であるエクス教教皇もまた、それらに並ぶ絶大な権威を持つ。
まさかそのような雲の上の人物だとは露知らず、ユイは椅子から飛び上がる勢いで姿勢を正した。
「し、失礼いたしましたっ!」
『構いませんよ。つい先日教皇に選出されたばかりですから。リンから聞く通りの、真っ直ぐな方ですね。いつも彼女と仲良くしてくださって、ありがとうございます』
「いえ、そんな、こちらこそです!」
恐縮しきりのユイだったが、画面越しの彼女はリンから聞いていた通りの慈愛に満ちた人物だった。まさかその優しげな女性が、銀河国家群最大の宗教の頂点に立っていようとは。
だが、この場には銀河国家群のトップが三名も揃っていることになる。なぜ自分のような一軍人が呼ばれたのか。
ユイの疑問を察したように、女帝が改めて本題を切り出した。
「今回、ユイさんに足を運んでいただいたのは、先日お話しした件について重大な続報が入ったからです」
「先日のお話……というと」
「はい。貴女の母君の血筋――『始まりの四家』デヴォンポート家についてです。あ、この場の面々には事情を共有しておりますので、安心してくださいね」
かつて皇居で女帝から告げられた、母のルーツ。ユイの亡き母が、連邦建国の功臣の末裔だったという話だ。
『その件の詳細については、私から説明いたしましょう』
聖女教皇の口から語られたのは、先日帝国側から密かにもたらされた機密情報であった。
『始まりの四家には、それぞれ秘匿された『S-Files』という継承データが存在したようです。そしてそれは、代々の当主が身に付ける装飾品の中に隠されているとか。ユイさん、貴女もお母様の形見をお持ちだと伺いました』
帝国が12貴族の有力者を拘束し、その機密データを解析した結果、失われた「始まりの四家」に関する記述が発見されたのだという。
「ユイ、母さんから譲り受けたあのペンダントを、今も身につけているね?」
「はい、肌身離さず」
父、ハジメの問いかけに頷き、ユイは首元から一つのペンダントを取り出した。そして、それを画面の教皇へと差し出すように掲げる。
『……っ、それは間違いありません。「ブルーラインシールド」です!』
「ブルーラインシールド?」
『始まりの四家、デヴォンポート家の紋章ですよ。ユイさん、地球自由連邦の国旗を思い浮かべてみてください』
「はい。十七星Ⅹ十字旗、ですよね」
連邦の国旗は、赤地をベースに紺色のⅩ字を配し、そこに17個の星が刻まれている。
『17個の星のうち、際立って大きく描かれた4つの星がありますね? あれこそが始まりの四家を象徴しているのです。そして、簡略化された現在のデザインでは星ですが、本来そこにはそれぞれの家紋が描かれていたのです』
国旗のⅩ字の上に配置された13個の星は、初期の13州。
そして上下左右を囲む4つの大星こそが四家を表しており、本来は以下の紋章が刻まれていたという。
『連邦の千年の歴史の中で、いつしか忘れ去られてしまった本来の姿です』
何気なく身に付けていたこの小さな飾りに、国家の根幹に関わるほどの意味があったとは。ユイの手が、わずかに震えた。
『帝国の解析情報によれば、S-Filesはこの手の装飾品内部に「マイクロチップ」として埋め込まれているとのことです』
「マイクロチップ……ですか?」
『現代のナノボット技術が確立される以前、情報を記録するために用いられていた古代のメモリのことです。今となってはロストテクノロジーに近いものですが』
「なるほど……。このペンダントの裏側、よく見るとごく細い溝があります。この中に何かあるのかもしれません」
ユイは首からチェーンを外し、指先でその溝をなぞった。
「ユイさん、大切なお品ですが、一時お預かりしてもよろしいですか。シズカ」
女帝の合図に合わせ、佐世保シズカが歩み寄る。彼女はハンカチで丁寧にペンダントを受け取り、恭しく頭を下げた。
「では、解析に回させていただきます」
シズカはそれだけ告げると、別室の検査ラボへと急いだ。
重苦しい静寂が流れる中、聖女教皇が静かに、しかしどこか懐かしむような声で語り始めた。
『解析には、少しばかり時間を要するでしょう。その間に、少しお話をしておきましょうか。かつて「冒険者」と呼ばれた六人の男女が、いかにしてこの連邦を築き上げたのか。その、始まりの物語を』
続く