【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
海賊船のブリッジは、絶望的な恐怖に包まれていた。扉の向こうから聞こえてくるのは、破壊音と悲鳴。それが一歩、また一歩と近づいてくる。ブリッジ要員たちは震える手で即席のバリケードを築き、固唾を飲んでいた。
その中心で、髭面の大男だけが不敵な笑みを浮かべている。
ついに、ブリッジの重厚な装甲扉が吹き飛んだ。爆発ではない。鋭い剣閃によって切断された鋼鉄の破片が、礫となって室内に降り注ぐ。
その砂塵の中から、黄金の動甲冑がゆっくりと姿を現した。
「……船長は誰だ」
その声は、驚くほど静かで簡潔だった。
「わっはっは! 儂だ、儂だ! 降参だ、全面降伏する!」
髭面の男――海賊船長が、笑いながら両手を挙げた。
「あんた、噂の『
「……」
黄金の騎士ギルは、油断なく
「ほら、お前らも武器を捨てて、手を挙げろ!」
船長の促しに従い、要員たちは困惑しながらも武器を投げ捨てた。その様子を見届け、ギルは片手剣を鞘に納め、ヘルメットを外した。
「我々の負けだ。如何様にも従おう」
「……人質の解放、奪略した物資の返還。そして、貴様ら全員の拘束だ」
「分かった、従おう。……恭順の証として、握手くらいはさせてくれんか?」
船長が右手を差し出そうとして、わざとらしく止めた。
「おっと、いけねえ。つい最近怪我をしましてな。すまんが、左手でもいいかね?」
「……」
右手が無骨な義手の
ギルは少しの間を置いてから、左手の盾を外し、ガントレットを脱いだ。
船長は素手の左手を差し出し、ゆっくりと近づいてくる。
その瞬間、義手の鍵爪がカチリと音を立て、鋭利な針へと変形した。
「死ねやぁっ!!」
変化した針がロケットモーターの推力を得て射出される。ご丁寧に猛毒まで塗られた必殺の暗器が、至近距離からギルの無防備な喉元を狙う。……はずだった。
ギルは眉ひとつ動かさず、神速の抜剣でその針を弾き飛ばす。
返す刀で、海賊船長の右腕を断ち割る。義手が外れ、その下から「本物の右手」が露わになった。
「……怪我をしていた、という話だったが?」
冷徹な告発。その右手は微塵も怪我をしている様子はない。
「貴様……!!」
化けの皮が剥がれた船長は、顔を真っ赤にして怒号を浴びせた。
「動くな! このスイッチ一つで、人質は全員爆弾で粉微塵だ!」
懐から取り出したリモートスイッチを誇示する。これが、この男が余裕を崩さなかった理由だ。
「誰の体に仕込んだかは教えてやらん! 人質を助けたければ、儂の言うことに従え!」
その刹那、ブリッジの全モニターが強制的に切り替わり、黒髪の女性が映し出された。
『人質は全員解放されたわ。その玩具のような爆弾も、既に解除済みよ』
「なっ……!?」
『この船のシステムはすべて私の制御下にあるわ。無駄な抵抗はよしなさい』
カイヤの宣告に、船長が絶望に打ちひしがれ、スイッチを握りしめたまま硬直する。
「……そういえば、右手を怪我していたのだったな。望み通りにしてやろう」
ギルの剣が閃き、スイッチを持っていた右手がポトリと床に落ちた。
「ぎゃあああああああ!!!」
本物の右手を失った船長が、左手で傷口を抑えてのたうち回る。
「き、貴様ぁ……! 正義の味方のつもりか……!」
「正義の味方などではない。我々は、貴様らが襲った客船から依頼を受けた『冒険者』だ。貴様らの身柄を依頼人へと引き渡すだけ。……だがな」
それまで無表情だったギルの瞳に、烈火のような怒りと殺気が宿る。ブリッジの空気が、肌を刺すような圧力で震え始めた。
その圧倒的な覇気に、船長のみならず生き残った海賊たち全員が、恐怖に震え上がり、縮こまる。
「仲間や家族の目の前で、何人もの無実の人々をなぶり殺しにした貴様らを、彼らがどう迎えるか。右手一本で済むなどと思うなよ」
「ひ、ひぃぃぃ……っ!」
――
かつて西暦と呼んでいた地球歴2500年頃。人類が太陽系を脱し、銀河の各方面へと版図を広げ始めた「大入植時代」。
人々が新たな星に国家を築き始めた頃、星系間の航路は未だ未整備な箇所が多く、危険に満ちていた。
そんな時代に、万事屋を家業とする者たちが現れた。国家や企業、あるいは個人からの依頼を受け、新規航路の開拓、入植惑星の調査、重要人物の護衛、高価値物資の輸送。さらには航路を脅かす海賊の掃討。
報酬を糧に銀河を縦横無尽に駆け巡る彼らを、人々は畏敬を込めてこう呼んだ。――『冒険者』と。
「次の依頼まで少し期間が空くわね。どうする、ギル?」
「……一度、行ってみたい場所がある。人類発祥の地――地球だ」
続く