【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
海賊の身柄を依頼主へと引き渡した後、次の依頼まで少し間があったため、ギルの提案で地球を目指すことになった。
人類発祥の地である地球だが、この時代においては、既に無人の地と化している。
地球歴2400年頃から始まった大移民時代。地球から溢れ出した人類は、巨大な移民船に乗り込んで銀河の各方面へと旅立っていった。新天地となった各入植惑星から遠く離れていることもあり、現在の地球は、もはや人が立ち寄ることのない静寂の星となっていた。
「まもなく第3惑星軌道上に到着します……
「小惑星か?」
「いえ、人工物のようです。映像に切り替えます」
「あれは地球時代のスペースコロニーだな。まだ重力制御の技術が確立されていなかった時代、遠心力による疑似重力で人々が生活していた場所だ」
「詳しいな、ギル」
ブリッジには乗員6人全員が揃っていたが、その人工物に即座に反応したのはギルだった。クロゥが感心したように声を漏らす。
「ここへ来る前に、個人的に調べておいた。……さあ、いよいよ地球へ向かおう」
かつて人工物が密集していたラグランジュポイントと呼ばれる領域を通過すると、ようやく目的の惑星がその姿を現した。
「これは……なんか、すごく白いな……」
クロゥの率直な感想は、その場にいた全員の思いを代弁していた。通常、生命の住む惑星は豊かな海を湛え、青く輝いているものだ。だが、初めて目にする母星・地球は、分厚い雲に幾重にも覆われ、不気味なほど白く霞んでいた。
「あれは硫酸エアロゾルの雲ですね。過去に大規模な火山の噴火が何度か発生したのでしょう。大気成分もメタンや二酸化炭素の濃度がかなり高いようです」
アリーシャの冷静な分析が、現在の地球の過酷な環境を浮き彫りにした。そもそも人類が地球を捨てて移民を決断したのも、こうした急激な環境変化が原因とされている。その流転は、人類が去った後もなお続いているようだった。
「カイヤ。最新の
「そうね……数年は掛かるでしょうけど、かつての青い星に戻すことは可能だと思うわ。……ここに住むつもりなの?」
「いや。ここは自然発生生命の起源となる星だからな。我々は不干渉を貫くべきだ」
現状、地球以外で固有の生命が発見された事例はない。生命の居住に適した環境を持つ惑星は幾つか存在したが、人類が定義し得る「生命」の姿は見つかっていなかった。もっとも、人類はまだ銀河の数%ほどしか進出していないため、いずれは邂逅する日が来るのかもしれないが。
セリアが地表の生命反応を確認したところ、驚くほど多くの反応が返ってきた。人類が去った後も、地上の動植物たちは逞しく繁栄を続けているようだ。
「で、これからどうするんですか? ギル殿」
「地球の衛星――『月』へ行く」
アムルの疑問に対し、ギルは迷いなく答えた。月。それこそが、今回の旅の真の目的地であった。
月には大気がない。人類が去って数百年が経過した今も、その姿は当時と変わらずそこにある。
「惑星のサイズに対して、この衛星は不自然なほど大きいのね……」
船の舵を握る艦長のカイヤが、率直な疑問を漏らした。事実、月の直径は地球の4分の1強にも達する。惑星に対する衛星の直径比率で言えば、太陽系内の他惑星と比べても桁違いに大きい。