【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
「カイヤ。『Sファイル』を開いてくれ」
「了解」
ギルの指示を受け、事前に共有されていたファイルへとアクセスする。
船長はカイヤが務めているが、この冒険者パーティーの実質的なリーダーはギルだ。彼の席も、艦長席のすぐ隣に配置されていた。
ファイルが展開されると、モニターに映る月の表面が精密にマッピングされ、各地形の詳細な名称が表示される。
「クレーターの一つへ降りる。ターゲットは『アリスタルコス』だ」
月の表側、嵐の大洋に位置する直径40kmのアリスタルコスクレーター。ギルの指示に従い、船は静かに降下を開始した。
重力制御を駆使して緩やかに高度を下げ、着陸脚を展開。全長300mの宇宙船がクレーターの底部へ着地すると、月の砂――レゴリスが激しく舞い上がる。
周囲を走査した結果、生命反応は皆無。危険なしと判断され、全員で月面へと降り立つことになった。男性陣は動甲冑を纏い、女性陣は機能的な宇宙服に身を包んで、銀世界の如き月面へ一歩を踏み出す。
『こっちだ。ついてきてくれ』
ギルはまるで道を知っているかのような足取りで、皆を先導する。月の重力は地球の6分の1しかない。彼らはぴょんぴょんと、独特の歩幅で弾むように歩を進めた。
しばらく進むと、クレーターの縁へと到着。そこには、不自然な人工物が存在していた。切り立った壁面に、巨大な金属製の扉が埋め込まれている。
『これは……葉っぱかしら? 文字は汚れていて殆ど読めないけれど』
カイヤが率直な感想を述べる。扉には赤いペイントで、半分に割れた葉の意匠がマーキングされていた。その傍らには何らかの文字も記されているが、降り積もったレゴリスのせいで判別は困難だ。
『ここだ』
ギルは扉の脇に設置されたコンソールのカバーを開いた。驚くべきことに、内部電源は数世紀を経た今もなお生き長らえていた。モニターが微かに明滅して起動し、仮想キーボードが表示される。システムはパスワードの入力を要求していた。
『ハッキングを試みましょうか?』
『いや、その必要はない。アリーシャ』
電子戦担当のアリーシャが宇宙服の袖口から接続コードを引き出すが、ギルはそれを制した。彼は迷いのない手つきで、キーボードを叩いていく。
『K、I、B、O、U? ……皇国語の「希望」のこと?』
『ああ。よく知っていたな、セリア』
傍らから覗き込んでいたセリアが、首を傾げて呟いた。霊子関連の調査で、
ギルが入力し終えると、モニターに承認を示す「OK」の文字が表示され、重厚な扉が地響きと共に開き始める。
内部は直線的な通路となっており、エアロックを介してさらに深部へと続いていた。エアロックを抜けた先では、人工的な呼吸可能環境が維持されている。センサーで環境チェックを行い、安全を確認してから、全員がヘルメットを脱ぐ。
「こっちだ」
ギルは携帯端末のマップを確認しながら、迷いなく奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、最初と同じマークが刻まれた扉が現れた。今度はパスワードを必要とせず、一行が前に立つだけで滑らかに自動で開く。
そこは広大なコントロールルームであった。無数のコンソールが並び、不気味な静寂が漂っている。
正面に設置された大型モニターには、あるメッセージが鮮やかに表示されていた。カイヤはその言葉を、一つひとつ確かめるように声に出して読んだ。
「”封印は解かれた。ようこそ、元地球の民よ。――地球統合政府”?」