【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
皇都から遠く離れた漆黒の宇宙空間を、一隻の巨艦が航行していた。人型搭載護衛艦DDH-5184『かが』。
静寂を切り裂き、艦内に鋭い警報が鳴り響いたのは、つい三分前のことだ。
「あ、艦長! お休みのところ申し訳ありません」
「いえ、状況は?」
『かが』の艦長、呉ナナ1等術佐は、休息時間を警報によって叩き起こされたばかりだった。
長い黒髪はわずかに乱れているが、最低限の身だしなみを整えているのは女性士官としての矜持だろう。白の幹部制服にタイトスカートを隙なく着こなし、正帽を深く被って艦橋へと足を踏み入れる。
艦橋中央、真紅の艦長席に腰を下ろし、副長から状況を聞く。
「軍艦? こんな場所に?」
「ええ。恐らく駆逐艦クラスが3隻。現在、艦種と所属国を照合中です」
「なんと間の悪いこと。人目を避けて、わざわざ主要航路から外れた宙域を選んだというのに」
ナナは小さく溜息をついた。
DDH-5184『かが』は、
銀河航路から外れたNGS 6633宙域まで遥々やって来たのは、新型艦の性能を静かに試すためだったが、どうやら先客がいたらしい。
「それはあちらも同じかもしれません。
「あら」
「後ろ暗い行動中のようですね。哨戒中の魚雷023から映像が入りました。スクリーンに投影します。
一つの量子が同時に二箇所に存在し、片方の状態変化が瞬時にもう片方へ伝播する特性を利用した、超光速通信技術だ。
無人機である魚雷023が捉えた映像が、正面の3Dモニタに浮かび上がる。
該当の軍艦は3隻。500m級の駆逐艦であり、剥き出しの砲塔や魚雷発射管が確認できる。現在は巡航状態にあり、まだ戦闘態勢には入っていないようだ。
「照合完了。艦種、所属国が出ました」
「どこの?」
「ヨソン国軍所属のナジ級駆逐艦。マンジュン国からの払い下げ品ですね。搭載HFは、旧式のミコヤ21兵士型が3機ずつ。三世代は型落ちの機体です」
現代の宇宙戦において、主役はHF――
艦そのものの性能以上に、搭載するHFの数と質が勝敗を分かつ。敵の戦力は、計9機の旧式HFということになる。
「ヨソン国……
ナナの声に、困惑の色が混じる。
「現時点では敵国認定はされていませんが……艦長、交戦規定を満たす理由が見つかりました」
「何かしら?」
「当該艦は国際手配中のようです。過去に定期航路上で海賊行為を繰り返しており、我が国の客船や貨物船も被害に遭っています」
「私掠船、というわけね」
「いかがいたしますか?」
「放っておくわけにはいかないわ。群司令部へ連絡。あと、『そうりゅう』と通信を繋いで」
「はっ!」
今回の訓練航海には『かが』だけでなく、霊電子戦艦SS-5501『そうりゅう』も随伴している。霊電子戦に特化したあの艦なら、より詳細な情報を掴んでいるはずだ。
「『そうりゅう』と通信が繋がりました」
『お姉さま……じゃなかった、呉ナナ1等術佐! お呼びでしょうか!』
スクリーンに現れた『そうりゅう』艦長は、黒髪ショートカットの少女とも言える若さの女性だった。
驚くべきは、その姿だ。軍服ではなく、白い着物に
画面越しの彼女は、ナナの従妹である呉ナゴミ2等術佐。満面の笑顔でナナを見つめる姿からは、身内への強い思慕が透けて見えた。
「呉ナゴミ2等術佐。状況は把握している?」
『はい! ヨソン国軍の駆逐艦3隻ですね。既に「穢れを祓って」周囲1.2光年を支配下に置いております!』
「さすがね、ナゴミ」
ナゴミは、ナナに褒められたのがよほど嬉しいのか、頬を染めて照れてみせた。
『えへへ、うちの巫女たちは優秀ですから! 敵に悟られず撤退することも可能ですが、どうなさいます?』
「そうもいかないわ。手配中の海賊船よ。拿捕、あるいは攻撃を想定しているわ」
『りょーかいです! 霊電子戦で徹底的に補佐します!』
「お願いね。以上」
方針は固まった。呉ナナ艦長は即座に決断を下す。
第04護衛隊群司令部への申請に対し、海賊対処活動としての攻撃許可が直ちに下った。
ナナは艦内通信で各部門へ矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「機関長。機関状態は?」
『問題なし。いつでも全力を出せるよ』
ウィンドウに現れたのは、色黒で恰幅のいい中年女性。ベテランの風格を漂わせる彼女を、ナナは深く信頼している。
「了解。戦闘になりそうでさせます。戦闘出力の準備を」
『あいよ!』
「砲雷長。雷撃戦の準備。哨戒と直掩、星間機動戦の結果を見て対艦攻撃へ移行」
『了解!』
「魚雷配置は……ここに対艦攻撃用6機」
ナナが宙域マップを指し、輝点を表示させる。
まだ若い砲雷長が、その位置に首を傾げた。
『この位置、ですか?』
「ええ。今回はHF戦を主眼に置きます。これは念のための予備と考えて」
『承知いたしました!』
次に現れたのは、茶色の髪を後ろでまとめた端正な顔立ちの男性だ。有能な空気を全身から醸し出している。
「飛行長。今回の主役はあなた方です」
『はっ!』
「第401人型機動戦闘飛行隊。敵HFを迎え撃ってください」
『了解。早期警戒機を先行させ、第一中隊で迎撃、第二中隊を直掩待機とします』
「よろしく頼みます。これは彼らにとって初めての実戦よ。万全のサポートを」
『心得ております!』
最新鋭艦『かが』にとっての初陣。だが、不安はない。乗員の多くは修羅場を潜り抜けた経験者で固められている。
ただし、HFのパイロットたちは別だ。
人型機動兵器の適性は若さに比例する。そのため、選ばれたのは成人したばかりの15歳の少年少女たち。
彼らにとって、これは真の意味での「初陣」となる。
駆るは最新鋭、星菱零式人型機動戦闘機。その真価が、今この宇宙で試されようとしていた。
「これより行動を開始する! 第一種戦闘配備!」
「はっ! 第一種戦闘配備!」
副長の力強い復唱が響き、全艦に再び警報が木霊する。
DDH-5184『かが』は一つの巨大な生命体へと変貌を遂げ、静かに、だが確実に動き出した。
「ヒューマンフレーム隊――発艦始め!」