【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ   作:ガルカンテツ

20 / 292
第六話 術士
Part-A


 先行するHF隊の先頭には、第402人型術式作戦隊の舞鶴シュユ2等術尉が搭乗する人型霊電子戦機がいた。コールサインは『グレイゴースト』。

 

「ホワイトアイ。こちらグレイゴースト。霊探の感度はどんな感じ?」

『グレイゴースト、こちらホワイトアイ。だめね。強力な霊電子攻撃(AEA)を全領域で受けているわ。でも、霊波波長変換パターンの情報収集は完了したから、霊網術(Aether Network)で送るわね』

「おー、さすがリンちゃん! 早速解析してみるよ」

『よろしく。こっちは第二中隊の管制に集中するわ。以上』

 

 同じ部隊の横須賀リン2等術尉からデータを受け取り、有効な霊電子対抗手段を検討する。

 

 リンは人型早期警戒機に搭乗し、HF隊から少し離れた位置で情報収集に当たっていた。機体の頭上には、青く光る円盤型の霊符が静かに回転している。

 

 二人の駆るHFは零式人型機動戦闘機と同じフレームを使用しており、基本的な運動性能に差はない。

 だが、その外装は異質だった。重厚な装甲の代わりに、巫女服を模した外装を纏っているのだ。

 それは繊維ではなく、希少な霊銀(Mithril)を編み込んだ鋼線で出来ている。霊銀は極めて高価なため、機体価格は通常の零式と比較して倍以上に跳ね上がっていた。

 

 早期警戒機や霊電子戦機という特殊な役割は、九割方がパイロット自身の資質に依存する。

 

「さてと」

 

 シュユは、操魂球内の仮想空間で指をぽきぽきと鳴らした。リンからの情報を元に霊電子防護(AEP)の構築を開始する。

 

 操縦桿の代わりに、空中には仮想キーボードが浮かんでいた。彼女はそれを猛烈なスピードで叩き始める。思考入力を行う方法もあるが、彼女はあえてキーボードを好んだ。思考するよりも速くキーを入力できる人種というものは、確かに存在するのだ。

 

「ほうほう、なるほど。結構な偏りがあるね。このパターン、どこかで見たことあるような……」

 

 解析を進め、攻撃パターンから対抗術式を組み立てていく。だが、先行させていた魚雷から敵機発見の報が入った。

 

「おっと、『キーンベイオネット』が見つけたみたいだね」

 

 彼女は自機の周囲に、三機の魚雷を引き連れていた。

 皇国の標準的な魚雷はホオジロサメを模したものだが、シュユが従える三機は形状が異なる。

 その内の一機『キーンベイオネット』は、メカジキを模していた。通常の魚雷よりも航行速度が速く、警戒のために先行させていたのだ。

 

 これらのカスタム魚雷は、すべてシュユが独自に開発した代物だった。

 

 彼女は巫術士であると同時に、優れた機術士でもあった。機術とは、いわゆるエンジニアリングのことだ。霊子技術が発展しても、旧来の機械工学や電子計算機(コンピュータ)が廃れたわけではない。むしろ霊子技術と高度に融合しており、それらを自在に操るのが機術士の職分だ。

 そして霊子技術と電子技術を駆使し、戦場を支配する軍事行動こそが、霊電子戦である。

 

 『キーンベイオネット』が捉えたのは、敵のHFだった。一機のみ。おそらくは先行偵察中なのだろう。

 それでもシュユは、キーボードを叩く手を止めない。

 

術式(Script)が組み上がるまで、もうちょっと時間が欲しいな。ボクのお魚ちゃんたち、よろしくね」

 

 彼女の言葉に応じるように、随伴していた魚雷二機――『キングフォスル』と『アイアンハンマー』が速度を上げ、敵HFへと肉薄する。

 

 敵HFは魚雷の接近を意に介さず、回避の素振りも見せない。常識的に考えれば、魚雷がHFに通用するはずがないからだ。その認識自体は正しい。だが、この二機は「常識」の外側にいた。

 

 邪魔だとばかりに、敵HFが『キングフォスル』へ一斉射を浴びせる。しかし、すべての弾丸が弾き飛ばされた。

 魚雷の周囲に重なり合う金属板のような鱗が、個別に移動して本体をガードしたのだ。シーラカンスをモチーフにした『キングフォスル』の特徴的な防護機構である。対HF弾には霊子が込められているが、弾頭自体は物理的な質量弾だ。ゆえに、こうした物理的な防御も極めて有効に機能する。

 

 敵HFが動揺を見せた一瞬の隙を突き、『アイアンハンマー』が体当たりを敢行した。

 強固な霊力場(Aether Force Field)を信じ、敵は回避しなかった。だが、魚雷は霊力場を紙のように切り裂き、そのままHFの頭部を撥ね飛ばした。

 

 『アイアンハンマー』のモチーフはシュモクザメ。そのT字型の頭部には、HF用の刀と同じ材質の刃が仕込まれていたのである。

 

 撃墜を確認した二機の魚雷は、主であるシュユの元へと帰還する。並走する機体からコードが伸び、HFと接続された。

 

「敵さんもビックリだよね。まさか魚雷が霊子を積んでるなんて。まあ、五分と持たないんだけどさ」

 

 コードを介して霊子を補給する。HF本体から離れた霊子はすぐに揮発してしまうため、自律行動時間は極めて短い。あくまで実験的な試作機であり、正式採用にはまだ改良の余地があった。

 

 補給を終えコードを切り離すと、第二中隊隊長の三沢ナユから通信が入った。

 

『グレイゴースト! こちらグリーンフラッグ01! 今、敵機と接触したようだけど大丈夫!?』

「グリーンフラッグ01、こちらグレイゴースト。大丈夫だよ、ありがとね」

『あんまり先行しないでよ。護衛しきれないじゃない』

「ちょっと敵の霊電子攻撃を解析してたんだ。……っと、これで完了! 術式(Script)起動!」

『お?』

 

 人型霊電子戦機の両脇に、鮮やかな緑に光る八角形の霊符が浮かび上がった。

 

「ホワイトアイ、こちらグレイゴースト。霊電子防護を開始したよ。データリンクよろしく」

『こちらホワイトアイ、了解』

 

 ノイズに埋もれていた霊探の表示が、一気にクリアになる。隠れていた敵駆逐艦とHFの位置が、鮮明に浮かび上がった。

 

「霊電子防護と同時に、カウンターで霊電子攻撃も展開。一時間くらいは持つはずだよ」

『ナイス、グレイゴースト! グリーンフラッグ01より、中隊各機へ! 目標割り当て完了! さあ、暴れるわよ! 各機、目標攻撃開始! 散開(ブレイク)!』

 

 第二中隊が華麗に散開し、敵の駆逐艦隊とHF隊へ襲いかかる。

 今度は逆に、敵の霊探が使い物にならない番だ。時間が経てばパターンも破られるだろうが、しばらくは一方的な戦場になるだろう。

 

 シュユは深く一息つき、戦域の霊電子状況を確認した。

 

「ふぅ。中々手強かったけど……どこかで見たパターンだと思ったら、これ『魔女の森』のやり方だね」

 




【完結】NGチルドレン もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/323311/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。