【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
先行するHF隊の先頭には、第402人型術式作戦隊の舞鶴シュユ2等術尉が搭乗する人型霊電子戦機がいた。コールサインは『グレイゴースト』。
「ホワイトアイ。こちらグレイゴースト。霊探の感度はどんな感じ?」
『グレイゴースト、こちらホワイトアイ。だめね。強力な
「おー、さすがリンちゃん! 早速解析してみるよ」
『よろしく。こっちは第二中隊の管制に集中するわ。以上』
同じ部隊の横須賀リン2等術尉からデータを受け取り、有効な霊電子対抗手段を検討する。
リンは人型早期警戒機に搭乗し、HF隊から少し離れた位置で情報収集に当たっていた。機体の頭上には、青く光る円盤型の霊符が静かに回転している。
二人の駆るHFは零式人型機動戦闘機と同じフレームを使用しており、基本的な運動性能に差はない。
だが、その外装は異質だった。重厚な装甲の代わりに、巫女服を模した外装を纏っているのだ。
それは繊維ではなく、希少な
早期警戒機や霊電子戦機という特殊な役割は、九割方がパイロット自身の資質に依存する。
「さてと」
シュユは、操魂球内の仮想空間で指をぽきぽきと鳴らした。リンからの情報を元に
操縦桿の代わりに、空中には仮想キーボードが浮かんでいた。彼女はそれを猛烈なスピードで叩き始める。思考入力を行う方法もあるが、彼女はあえてキーボードを好んだ。思考するよりも速くキーを入力できる人種というものは、確かに存在するのだ。
「ほうほう、なるほど。結構な偏りがあるね。このパターン、どこかで見たことあるような……」
解析を進め、攻撃パターンから対抗術式を組み立てていく。だが、先行させていた魚雷から敵機発見の報が入った。
「おっと、『キーンベイオネット』が見つけたみたいだね」
彼女は自機の周囲に、三機の魚雷を引き連れていた。
皇国の標準的な魚雷はホオジロサメを模したものだが、シュユが従える三機は形状が異なる。
その内の一機『キーンベイオネット』は、メカジキを模していた。通常の魚雷よりも航行速度が速く、警戒のために先行させていたのだ。
これらのカスタム魚雷は、すべてシュユが独自に開発した代物だった。
彼女は巫術士であると同時に、優れた機術士でもあった。機術とは、いわゆるエンジニアリングのことだ。霊子技術が発展しても、旧来の機械工学や
そして霊子技術と電子技術を駆使し、戦場を支配する軍事行動こそが、霊電子戦である。
『キーンベイオネット』が捉えたのは、敵のHFだった。一機のみ。おそらくは先行偵察中なのだろう。
それでもシュユは、キーボードを叩く手を止めない。
「
彼女の言葉に応じるように、随伴していた魚雷二機――『キングフォスル』と『アイアンハンマー』が速度を上げ、敵HFへと肉薄する。
敵HFは魚雷の接近を意に介さず、回避の素振りも見せない。常識的に考えれば、魚雷がHFに通用するはずがないからだ。その認識自体は正しい。だが、この二機は「常識」の外側にいた。
邪魔だとばかりに、敵HFが『キングフォスル』へ一斉射を浴びせる。しかし、すべての弾丸が弾き飛ばされた。
魚雷の周囲に重なり合う金属板のような鱗が、個別に移動して本体をガードしたのだ。シーラカンスをモチーフにした『キングフォスル』の特徴的な防護機構である。対HF弾には霊子が込められているが、弾頭自体は物理的な質量弾だ。ゆえに、こうした物理的な防御も極めて有効に機能する。
敵HFが動揺を見せた一瞬の隙を突き、『アイアンハンマー』が体当たりを敢行した。
強固な
『アイアンハンマー』のモチーフはシュモクザメ。そのT字型の頭部には、HF用の刀と同じ材質の刃が仕込まれていたのである。
撃墜を確認した二機の魚雷は、主であるシュユの元へと帰還する。並走する機体からコードが伸び、HFと接続された。
「敵さんもビックリだよね。まさか魚雷が霊子を積んでるなんて。まあ、五分と持たないんだけどさ」
コードを介して霊子を補給する。HF本体から離れた霊子はすぐに揮発してしまうため、自律行動時間は極めて短い。あくまで実験的な試作機であり、正式採用にはまだ改良の余地があった。
補給を終えコードを切り離すと、第二中隊隊長の三沢ナユから通信が入った。
『グレイゴースト! こちらグリーンフラッグ01! 今、敵機と接触したようだけど大丈夫!?』
「グリーンフラッグ01、こちらグレイゴースト。大丈夫だよ、ありがとね」
『あんまり先行しないでよ。護衛しきれないじゃない』
「ちょっと敵の霊電子攻撃を解析してたんだ。……っと、これで完了!
『お?』
人型霊電子戦機の両脇に、鮮やかな緑に光る八角形の霊符が浮かび上がった。
「ホワイトアイ、こちらグレイゴースト。霊電子防護を開始したよ。データリンクよろしく」
『こちらホワイトアイ、了解』
ノイズに埋もれていた霊探の表示が、一気にクリアになる。隠れていた敵駆逐艦とHFの位置が、鮮明に浮かび上がった。
「霊電子防護と同時に、カウンターで霊電子攻撃も展開。一時間くらいは持つはずだよ」
『ナイス、グレイゴースト! グリーンフラッグ01より、中隊各機へ! 目標割り当て完了! さあ、暴れるわよ! 各機、目標攻撃開始!
第二中隊が華麗に散開し、敵の駆逐艦隊とHF隊へ襲いかかる。
今度は逆に、敵の霊探が使い物にならない番だ。時間が経てばパターンも破られるだろうが、しばらくは一方的な戦場になるだろう。
シュユは深く一息つき、戦域の霊電子状況を確認した。
「ふぅ。中々手強かったけど……どこかで見たパターンだと思ったら、これ『魔女の森』のやり方だね」