【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
本日、何度目か分からない驚愕の声を上げたユイだったが、直後に会議室のドアが開いて佐世保シズカが入ってきたことで、会話は一旦中断された。
「ユイ様。ペンダントをお返しいたします。裏側の隙間からマイクロチップを回収しましたが、本体に傷がついていなければ良いのですが……」
「あ、はい。ありがとうございます」
純白のハンカチに乗せられ、丁寧に返却されたペンダント。ユイは裏側をそっと確認したが、目立つような傷は一切なかった。彼女の心遣いに感謝しつつ、ペンダントを一旦机の上に置く。
「シズカ、解析の結果はどうでしたか?」
女帝の問いに、シズカはナノボットのウィンドウを展開し、手際よく操作を開始した。
「はい、陛下。予想通り、ペンダント内部にはS-Filesのマイクロチップが格納されていました。現在、全データの復元と分析を進めております」
シズカが空間をスワイプすると、会議室の中央にナノボットによる立体映像が浮かび上がった。
「これは……?」
「地球の衛星「月」です。S-Filesには、その内部構造に関する詳細な設計データが含まれていました」
直径1メートルほどのサイズで投影された球体は、無数のクレーターが刻まれた砂色の天体だ。シズカが操作を加えると、各地形に名称が書き込まれていく。
「アリスタルコス・クレーターに、連邦の基地がありましたよね」
「はい。地球統合政府の時代から既に施設が存在していたようで、連邦はそれを再利用していたようです。現在は帝国もそこを拠点にしていると思われます」
その「月」そのものが、今まさに帝国によって動かされている。ユイは改めて事態の重大さを噛み締めた。
さらに操作が進むと、月の外殻が透過され、ワイヤーフレームで内部構造が露わになる。表面付近には幾層にも重なる巨大な建造物群。そして、月の中心核には、異質な球状の物体が鎮座していた。
「中心部に位置する直径13.75kmの球体……これは「コア」と呼ばれており、遺跡の本体そのものです。おそらく帝国はこのコアを動力源、あるいは演算装置として利用し、機動要塞を制御しているのでしょう」
シズカの解説を受け、それまで沈黙を保っていたフランクス王が口を開いた。
「……そのコアを破壊することができれば、あの機動要塞を沈めることは可能なのか?」
「はい。物理的、あるいは霊子供給源を断てば、機能は停止するはずです」
フランクス王シャルルⅢ世は、深く指を組んで机に肘をつき、苦悶の色を隠さずにいた。
「連邦を蹂躙したあの要塞が、補給を終えてこちらへ向かってくる。連邦軍の主力を子供扱いにした怪物だ。それを迎え撃つのは、領邦軍を退けるのとは訳が違う。……想像を絶する苦戦になるだろう」
「トロワ……」
「……ありがとう、ミヤコ」
シャルルⅢ世の強張った腕に、女帝がそっと手を置く。シャルルもまた、彼女の手の上に自らの手を重ねた。
(あら……?)
親友のナユに「鈍感」と太鼓判を押されているユイでも、流石に気づく。二人の間に流れる空気、その距離。それは単なる同盟国の元首同士のものではない。お互いを幼名で呼び合っているのも、長年の深い絆ゆえだろう。
以前の恋バナ(?)の際に、デルフィーヌが「王様には期待しない方がいい」と釘を刺していたのは、こういう意味だったのだ。
(ナユ……。せっかくの王子様、いえ王様には、もうちゃんと素敵なお相手がいるみたいよ。玉の輿作戦は失敗ね。ご愁傷さま……)
ユイは心の中で、現在『かが』で待機しているであろう三沢ナユに向かって、そっと手を合わせた。