【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
打開策が見つからず、誰もが思案に暮れていたその時、皇国側の末席に座っていた男が静かに手を挙げた。
「提案します!」
「君は?」
「『かが』飛行長、春日ツクモ3等武佐です」
「飛行長殿。提案とは何か」
「HF二機による、最短距離での中央突破を進言いたします」
「「「な……っ!?」」」
聞き役を務めていたフランクスの将軍たちのみならず、皇軍の士官からも驚愕の声が漏れた。
「正気か!? 80機の真っ只中に突っ込めば、一瞬で包囲されて蜂の巣だぞ……」
「通常のパイロットであれば、その通りでしょう。ですが、それを可能にする実力を持った者が我が隊にはおります」
「それは誰だ?」
「『かが』所属、第401飛行隊第一中隊長、横田ユイ1等武尉。および、その
「!?」
その名が出た瞬間、真っ先に反応したのは横田ハジメ武将補だった。彼は椅子を鳴らして立ち上がろうとしたが、ツクモの瞳に宿る烈火のような真剣さを見て、唇を噛み締めて踏みとどまった。
「根拠はその圧倒的な突破力です。我が隊のエースたる彼女は、『青い稲妻』の異名の通り、皇軍……いえ、銀河国家群においても随一の機動力を持つと断言します。直属の上長である私が保証いたします」
「……だ、だが、仮に突破できたとしても、月面に辿り着く前に全軍の追撃を受けるのではないか?」
親友たちの名が挙がったことに困惑を隠せないシャルルⅢ世が、ツクモに問いかける。
「はい。ですから、そのためにもう一つの提案がございます。シャルルⅢ世陛下……貴方ご自身に、帝国皇帝フリードリヒⅣ世へ一騎打ちを挑んでいただきたいのです」
今度こそ、会議室は完全な静寂に包まれた。
「き、貴様ッ!! 陛下をなんと心得る! 無礼にも程があるぞ!」
激昂した参謀本部長がツクモに詰め寄ろうとするが、当の国王がそれを手で制した。
「よい。……ワタシはこの戦いにおいて、身を賭す覚悟はできている。春日3等武佐。ワタシが皇帝に決闘を挑むことに、どのような戦術的価値があると考えている?」
「はっ。皇帝の性格を分析するに、彼は間違いなくその誘いに乗ってきます」
「……だろうね」
「陛下が挑まれれば、一時的に帝国全軍の動きが止まります。皇帝の動向こそが帝国のすべて。そして尊大なる彼は、間違いなく部下たちに手出しを禁じるはずです。……その一瞬の隙こそが、全HFが一対一の乱戦に持ち込み、敵に追撃の余力を持たせない唯一の機会となります」
会議室がざわめき立つ。皇帝の心理までを計算に入れた、あまりに大胆な作戦。だが、そのリスクは計り知れない。
「なるほど。ワタシが皇帝を釘付けにしている間に、局地的な混戦状況を創り出すというわけか」
「その通りです。陛下……貴方は必ずしも勝つ必要はございません。ただ、時間を稼いでいただければそれでよいのです」
誰もが口には出せないが、相手は「あの」帝国皇帝だ。もし王が敗れれば、フランクス王国の再興はそこで終焉を迎える。
しかし、若き王は不敵に笑ってこう言った。
「だが……。そのまま倒してしまっても構わないのだろう?」
「もちろんです。そうなれば、この戦争はそこで終わります。陛下の腕前ならば、決して不可能ではないはずです」
「いいだろう。その案に乗らせてもらう」
王自身が決断を下した以上、配下たちに異論を挟む余地はなかった。頭を抱える参謀たちを余所に、ツクモは淡々と提言を続ける。
「皇帝親衛隊の制圧には、皇軍の近衛HF隊を充てていただきたいのですが……」
ツクモが視線を向けたのは、近衛師団の入間タカシ1等武佐だ。宇宙空間での戦闘において皇軍最強を誇る、近衛師団第1戦隊。彼らを最強の敵である皇帝親衛隊のカウンターとして置きたい。
入間は静かに目を閉じ、一瞬の思考の末に力強い声で答えた。
「分かった、引き受けよう。……ただし、一つ条件がある」
「何でしょう」
「ツクモ、貴様もHFに乗れ。第1戦隊に零式52型の予備機が余っている。それを使え」
「……了解しました。お借りします」
「うむ。どうせ凄まじい大混戦になる。艦内から飛行長として指示を出している余裕などあるまい。一機でも多くのエースが必要だ。『春日の鬼虎徹』と呼ばれたその腕前、久々に見せてもらうぞ」
「……ブランクはありますが。全力で行かせていただきます」
ツクモの古い二つ名を耳にした幾人かの士官たちが、驚きに目を見開いた。
「……提言に感謝する、春日3等武佐。方針は定まった。直ちに詳細を詰めよう」
シャルルⅢ世の宣言により、対機動要塞戦の骨子が固まった。作戦の細部は、フランクス軍参謀本部と皇軍の統合幕僚監部による合同作業で、急速に具体化されていく。
各人がそれぞれの決意と不安を抱えたまま、この歴史的な会議は幕を閉じた。
続く