【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
Part-A
「ツクモ! 待って!」
「ナナか」
会議室を出たところで、呉ナナが春日ツクモを呼び止める。
「すまん、先に『かが』に戻っていてくれ。俺は『いずも』に寄って、HFを借りてから戻る」
「……本気なの? 飛行長が自ら出るなんて」
「横田と星菱に突撃を、他国の国王には一騎打ちを提案した身だ。発案者が前線に出ないなんて、俺の流儀に反するからな。正直なところ、入間先輩の提案は渡りに船だったよ。HFがなければ、フランクスからでも借りようかと思っていたくらいだ」
「でも……」
「まあ、ブランクはあるさ。だが訓練の合間に何度か借りて乗っていたし、全く動かせないわけじゃない。一機くらいは、きっちり落としてみせるさ」
「……」
何を言っても無駄だと悟ったのか、ナナは押し黙った。ツクモはそんな不満げなナナの頭を、子供をあやすようにポンポンと叩く。
「もう、子ども扱いしないでっ!」
「心配するな。この戦争が終わったら、ナナに伝えなきゃならないことがある。だから死なんよ。……ん? これじゃあゴウガが言っていた『フラグ』ってやつになっちまうか?」
「フラグは自分で折るものだって、三沢さんが言っていたわ」
「そうだな。じゃあ、行ってくる」
ツクモは手をひらひらと振って歩き去る。ナナは立ち尽くしたまま、遠ざかるその背中をじっと見つめていた。
――
「レインボータワー。こちら春日ツクモ3等武佐。着艦許可を願う」
『春日3佐、こちらレインボータワー。話は通っております。『かが』飛行甲板への着艦を許可します』
「了解、感謝する」
『恐れ入ります、作戦用のコールサインはどう登録しましょうか?』
「ああ、そうだな。……昔使っていた『オーガー01』で頼む」
『了解です、登録いたします。……え? 既に登録データが残っていますね。これは……
「昔の話だよ……」
十年前、ホクジ事変と呼ばれる激戦でツクモが叩き出した驚異的なスコア。旧式の航空機型機動戦闘機が大半とはいえ、敵のHFも10機以上を屠っている。『春日の鬼虎徹』という二つ名が銀河に轟いたのは、この時の功績によるものだ。
(あの頃の俺は18歳か。……今のあいつらと、ちょうど同じくらいだな)
ツクモは黒い装甲に赤いラインが走るHFをエレベーターで降ろし、自らの足で歩かせて格納庫の定位置へと係留した。
「こいつが52型か」
「おやっさん、急に悪かったな。整備を頼む」
「いいってことよ。新型に触れるのは整備士の冥利に尽きるからな。……まあ、基本フレームは見慣れた近衛仕様だが」
『かが』の整備班長とツクモは旧知の仲であり、彼こそがツクモが近衛から唯一引き抜いた信頼の置ける男だった。
「それと、94番のコンテナを出してくれ」
「……本当に、あれを使うのか」
整備員がリフトで運んできた細長いコンテナが、52型の傍らに置かれる。
重厚なハッチが開くと、中にはHFサイズの巨大な刀が収められていた。ツクモは愛惜を込めてその刀身に触れる。
「長く寝かせていて悪かったな、相棒。……これで最後だ。行くぞ、長曽祢虎徹」