【第二部開始】人型機動兵器ヒューマンフレーム・ゼロ 作:ガルカンテツ
『かが』の通路を、小気味よい音を立てて歩く少女。金髪の縦ロールを颯爽となびかせるその姿は、本来この艦にあるはずのものではない。
「デルフィーヌ」
その少女を呼び止めたのは、壁に寄りかかって待っていた少年だった。
「ゴウガ?」
デルフィーヌ・ランディヴィジオと三沢ゴウガ。二人は並んで目的地へと歩き始める。
「……すまんな」
「何がですの、唐突に」
「いや。お前、本当はトロワ……国王陛下の護衛役だったんだろ?」
「それはそうですけれど、陛下直々の御命令ですもの。文句のあろうはずがありませんわ」
「そうか。……姉さん――三沢ナユが全体指揮に回るから、俺の
急遽決まった配置換え。横田ユイは中隊指揮ができない。春日飛行長も別働隊として近衛HF隊と行動する。そのため、三沢ナユが臨時に二個中隊の統括を任されることになった。戦域全体を俯瞰する必要があるナユは、積極的な戦闘参加ができない。
空位となったゴウガの僚機席に、デルフィーヌが収まることになったのだ。
「ええ。先日までペアを組んで訓練していましたし、適任でしょう?」
「そりゃあそうだけどよ」
「もう、何なんですの! はっきりとおっしゃい!」
「……あー。身内の都合でお前をトロワから引き離しちまって、悪かったと思ってよ」
デルフィーヌは足を止め、ゴウガを正面から見据えた。
「らしくありませんわね! いつものゴウガなら『俺について来い!』くらい豪語するでしょうに。……ああ、もう。では、お詫びとしてワタクシの言うことを一つ聞きなさい」
「お、おう。……何だ、言ってみろ」
「ワタクシを『フィー』と呼びなさい。デルフィーヌでは長すぎるでしょう?」
「……へ? それだけでいいのか?」
「ええ。嫌ですの?」
「……分かったよ、『フィー』」
「ふふ。よろしくお願いしますわ、ゴウガ」
「ああ。よろしくな、相棒」
歩きながら、二人は軽く拳を打ち合わせた。向かう先は、ブリーフィングルーム。
そこでは、文字通り最後の作戦会議が始まろうとしている。
――
ブリーフィングルームでは、春日ツクモによる最終作戦工程の説明が行われていた。
「……というわけで、横田と俺は戦域全体の指揮からは外れる。すまないが、三沢、全体指揮を頼む。第402人型術式作戦隊のバックアップも付く」
「了解です! ……ですが、本当にユイたちは……」
事前に共有されていた内容ではあるが、ナユは未だにその過酷な役割を信じきれずにいた。
「ああ。横田ユイ1等武尉!」
「はい!」
「星菱レイ2等武尉!」
「はい」
「以上二名は、全軍の先鋒として敵HF群を突破。月面へ到達後、アダムズ・クレーターの隠し通路を抜け、機動要塞中央のコアを破壊せよ」
「「はっ!」」
室内の温度が下がったかのように、静寂が広がった。わずか2機で、敵80機を突破する。正気の沙汰ではない。
「一番槍は武人の誉れ、などとは言わん。君たちならば可能だと、俺が判断した。それだけだ」
「「光栄です」」
二人は短く応じ、鋭い敬礼を捧げて列に戻った。その迷いのない覚悟に、周囲の隊員たちがざわめく。
「他の面々も、他人事だとは思うな。二人と同じくらい、いや、それ以上に重要なのが、俺たち残りのHFの役割だ。横田たちを追おうとする敵機が一機でもいれば、作戦は失敗だと心得ろ。何が何でも敵を釘付けにし、食い止める。それが俺たちの任務だ。心してかかれ!」
ツクモの檄が飛ぶ。全員が弾かれたように直立し、一斉に敬礼した。
「……以上だ。最後に一つだけ。……全員、生きて帰れ。解散!」